BOOK4

□No.48
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放心するシャチをわざわざ己の部屋へと運んでやったというのに、奴は珈琲を飲みに食堂へ向かう俺の背中を追ってきた。


…こうなると、分かっていなかったのか?


「シャチもよぉ、何だってあんなヘンテコな物買ったんだよ」


食堂に響く数々の笑い声。皆余程シャチの野郎を苛め倒したいようだ。


「へへ…ど〜せ俺はダサダサキングだよ…いいよ…丁度シャンプーボトル欲しかったんだ」


無理矢理クルーに引き留められ、部屋に戻れないシャチは遂に諦めたのか…遠い目をしながら、食堂の隅に座り込み俺達に背を向け、分かりやすく落ち込み始める。


その手には既に酒が握られているが…ありゃ料理酒じゃないのか?全く、瀕死の重症だな…頭が。


「はぁ…ところでお前等、ちゃんとやる事は終わったのか?」


その言葉に、今の今まで馬鹿みてぇに騒いでた皆の動きがピタッと止まる。何だ、まだ終わってねぇのか。呑気な奴等だな。


「船長に見つかる前に終わらせておけよ」


それだけ言って俺が席を立つと同時、ドタバタ無駄に音を立て、クルーは食堂を後にした。


残されたシャチは相変わらず負のオーラを放っている。俺も早く仕事を終わらせたいんだが…面倒だ、置いていこう。


食堂を出て自室に向かう途中で、クルーに声をかけられ止める歩み…


「洗剤どこだっけ?!」


そう聞いてきた洗濯スタイルをとった奴に、棚の3段目の中だ。そう説明し再び歩き出せば、数歩進んだ所で今度は…何やら嬉しそうに廃材を抱えた奴と遭遇した。


「なぁなぁ、これで机作っても良いか?」


「………」


勝手にしろよ。


とりあえず、屑は散らかすな。とだけ言い、今度こそ自室へと歩きだし「おーいペンギンッ」…


「ペーンギーン、コイツさぁ〜」


チッ…今度は何だ!!俺はお前等の母親じゃねんだよ!!


苛立ちを抑え声の主に向き合う。文字通り、重い足取りで俺の元に来たクルーの腕には、船長が買った分厚い医学書の数々。


「コイツ、どうする?」


どうする、だと?


「………」


お前、自分は医学書を鍋に突っ込み、コンソメと共にコトコト煮詰め食う人種です。とでも言うのか?


それとも何だ?その医学書、実は化け物で襲ってくるから、厳重に隔離しましょうか。って相談か?馬鹿らしい!!


「船長の部屋に運んでおけ…」


今夜からの愛読書だ。そうため息混じりに指示を出せばこの男、何か疲れてんな…寝不足か?と呑気に俺の心配をしてきやがる。


「馬鹿の相手は疲れるんだよ」


遠回しに嫌味を言ってやったのに奴は、シャチの野郎は仕方ねぇよ!!と豪快に笑い、行ってしまった。


…だから疲れるんだ。
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