BOOK4

□No.54
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ソファーに横たわるミラーの傍に膝を付き、長い睫毛を濡らす涙を、ソッと指で拭う。


俺があのトナカイを部屋へ連れて行った後、多分…船長はミラーを連れ戻った筈だ。事が起きたのは、その時だろう…


船長の奴も全く…自分の嫉妬のせいで、惚れた女を泣かせるなよ。


「はぁ…」


船長は一度ヘソを曲げると長引く。今回も、すぐに解決。とはいかないだろう…それを考えると、自然とため息が漏れてしまった。


「うッ…あれ、俺…」


あぁ…今はコイツの問題も有るんだったな。全く面倒な時に降って湧いてきやがって。


「ギャーッお前誰だ?!」


うるせぇ…これ以上俺の頭を痛めるな。


再度ため息を吐き、酷い顔で驚いているトナカイの元へと、苛立ちを含め歩み寄る。


「良いかトナカイ…俺達は今、お前をどうにかするつもりは無い。だがそれは、お前の在り方次第で変わるって事を肝に命じておけ…一つだけ言っておこう」


「ぐえッ」


「一度しか言わねぇ…俺は煩い小動物は嫌いだ」


分かったらこれ以上喚くな。グイッとつまみ上げたトナカイを、目深に被った帽子の隙間から睨み付けそう言い放つ。


「わ、分かった」


鼻水を垂らしながらトナカイがコクコク頷いたのを確認し、再びベッドへと下ろしてやる。


“ボワンッ”


持参した水とパンを与えてやろうとベッドに背を向けた瞬間、何やら違和感を覚え首だけで背後を見やると…誰だコイツ。


「…能力、者か?」


先程トナカイが居た場所には、大柄な男が肩をすぼめ、怯えた様に座り込んでいた。


ただ…鼻が青い。能力者ならば、どんな能力だ?


「俺は…ヒトヒトの実を食った、人間トナカイなんだ」


そう恐る恐る説明するコイツの原型はトナカイらしい。ヒトヒトの実って…その実を食った人間は悲惨だな。


だが、デカいとデカいで邪魔だ…小動物で無いければ良いってもんじゃねんだよ。


とりあえず、俺は奴を先程の大きさに戻らせた。あの姿のままだと、俺のベッドを破壊されかねない。
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