BOOK4
□No.55
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起きているのは分かっている。だが未だ返答が無い。
“コンコンッ”
4度目のノック音が消えた所で、俺はドアノブを回した。狸寝入りを続ける方が悪い。
「…誰が入れと言った」
すると、すぐさま響いた不機嫌な声。
「口が塞がっているのかと思いましてね…心配して乗り込んだまでですよ」
その答えに船長は、舐めやがって…そう苦々しく舌打ちをし、バタン。と手元の本を閉じだした。
相変わらずベッドに足を投げ出し腕を組む船長を尻目に、俺がソファーへと腰を下ろせば、船長はあからさま嫌な顔を寄越してくる。
「何の用だ、とは聞かないで下さいよ…分かってる筈だ」
船長が口を開く前にそう言うと、眉間に皺を寄せ顔を叛けられた。全く…本当に中身は子供だな。
呆れ気味に外した視線の先に有ったゴミ箱内に、何の変哲も無いシャンプーボトルが捨てられているのが目に入り、思わず俺は顔が弛んだ。
ミラーの行動は…俺達の心を穏やかにする。本当に…不思議な子だ。
「ミラーに泣きつかれたか」
お前も大変だな。そう機嫌悪く鼻で笑った船長に、再び引き締めた顔を向け、言葉を紡ぐ。
「ミラーは、俺の前では泣かなかった…必死に涙を堪えるぐらいなら、盛大に泣いてくれた方がまだ良いんだがな」
寂しいよ。大げさに帽子を掻き上げ落胆を示すと、船長は少し驚いた表情を向けてきた。
「何があったのかは知りませんが…俺達は、明日の保証なんざ無い生活を送ってるんだ」
意地は張らない方が良い。そう強く言い放った俺の言葉を、船長がどう受け止めたかは分からない。いつもの読めない表情のまま、遠くを見詰め未だ口を固く閉ざしている。
船長も、本当はミラーと仲直りがしたいんだろ?言ってみろよ。アンタが今正直になれば、俺がミラーをここに連れて来てやっても良いんだぞ?
さっさと吐いちまえよ、ほら。
俺もただ黙って船長の出方を見るが、一向に動きが無い…あと10秒だけ待とう。
「……………」
この頑固野郎。後は勝手にやってくれ…俺はため息を残し、ソファーから立ち上がった。
「あぁ…ミラーは今夜、シャチの部屋で寝させるんで。シャチの野郎には不寝番を言い付けときますよ」
それじゃあ俺はこれで。ひたすら黙りを決め込んだ船長に、それだけ伝えて立ち去る。
暗に、迎えに行けよ。と、言ったつもりだが…どうだろうな。
―――――----
「『バカヤローッ』」
自室の扉を開けると共に罵声が飛び込んでき、俺は思わず面食らってしまった。
何だッ?!と一瞬焦ったが、互いをキツく抱き締め合ったミラーとトナカイが放った罵声は、どうやら俺に向けてでは無いようだ。
「おい、何故2人が仲良くやってる」
不安は有ったが…唯一の目撃者である、呆れた顔で2人を見守るシャチに説明を促す。
するとコイツは何を思ったのか…まさかのシャチによる一人芝居が始まってしまった。