BOOK4

□No.60
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ど、どういう事だ?!


甲板に集まる全員が、頭上を見上げて俺達に影を作る、ソコにあるべき無いものを呆然と目で追う。


『ぁぁ…ぁ…ー……』


…ちょっと待てよ、何が起きた?


「……嘘だろ?」


一瞬で消えた悲鳴。そしてこの場に居る全員が、同じ方角に腕を伸ばしたまま口がポカーン。


甲板は、今の今まで殴り合いが起きてたとは思えない程の静けさ…


けどきっと俺だけじゃねぇ。誰も今、目の前で起きた事に頭が追い付いてねぇよ。


だって船が…飛んだんだぞ?そんな話、誰が信じる?


俺達からどんどん距離を取る麦わら達の船が再び水面に着くまで、誰も身動き一つ出来ないままだった。


「…ミラーが…拐われた」


波音だけが響く中、ボソッと感情が抜け落ちた誰かの呟きに、やっと皆その事実を突き付けられる。


「っやべぇよ!!急いで追いかけろ!!」


「む、無茶言うな!!あんな大豆みてぇになった船追い付けねぇよ!!」


「馬鹿野郎ッ!!無茶でもやんだよ!!」


「さっさとしろ!!」


皆がバタバタ慌てて動き出してもまだ…俺は伸ばした腕を下ろす事すら出来ずにいた。


「ミラー…嘘だろ?…ミラー?」


何でミラーが…?そう未だ困惑する頭に、リアルな激痛が走る。


「いつまでも腑抜けてんじゃねぇよシャチ!!全速力で船長に知らせて来い!!」


クルーがそう怒鳴って、ポイッとさっき俺に降り下ろした銃身を投げ捨てた。


痛みと共に遅れて現実を突き付けられた俺は、放り投げられたソイツが甲板とぶつかり合う騒音を響かせるよりも早く、慌てて駆け出す。


クソッ…!!麦わらの野郎目的は何だ?!何だってミラーをッ!!


「ッ?!どぅわッ!!」


船長室に向かう途中に位置する武器庫の前で、俺は派手に滑って背中から床に激突…


くっそ急いでる時に何だよ?!何でこんな所に油が大量にこぼれてやがる!!


良く見りゃ武器庫から漏れてるらしい油は、扉の真正面に位置する壁側にはギリギリ届いてなく、多少足の踏み場が有ったんだが…俺にそれを見極める余裕は無かった。


しかも今ではその隙間すら、俺が埋めちまってもうねぇ…無駄に足を取られて全然立ち上がれねんだよ…やべぇ!!


「…何やってんだよお前。通路を汚すな」


通れねぇじゃねぇかよ。俺が向かいたい先から、何故か上機嫌で歩いてきたペンギンが、生まれたての小鹿みてぇになってる俺を見て怒りの眼差しを向けてくる。それどころじゃねんだって!!


「麦、わらの船が!!船がバビューンッて!!」


俺は四つん這いで足をプルプルさせながら、必死に立ち上がろうと試みながら伝える。


は?あぁ、見つかったのか。なんて呑気なペンギンは、俺の言いたい事が全然分かってねぇ!!


「だからミラーが!!い、きなりバビューンッ!!て飛んッ、だんだよ!!」


…さっきから何が言いたいんだよ。そう呆れるペンギンに苛立ちながら、俺は立ち上がる事を諦めた。これじゃ話に集中出来ねぇ!!
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