BOOK4
□No.64
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“バリーンッ!!”
「船長…荒れてますね…」
最高速度で進む船の航路が安定したのを見届け、俺が武器庫の清掃を手伝っている中響き渡ったその音に、クルーが怯えた様子でそう漏らす。
確かに、この音を聞くのはこれで4度目だ。
今この船で暇をもて余した奴は居ない。何だかんだ言いつつ、皆何かしていないと落ち着かないのだろう。それは俺も同じ…
「今船長を落ち着かせる事が出来る奴は居ないだろう…早く片付けちまうぞ。ミラーが戻った時、こんな通路じゃ確実にアイツは転けちまう」
俺が笑ってそう言うと、この場に居る奴等が同意を示し、今まで以上に一生懸命撒かれた油を拭き取る作業に没頭した。
「あれ?ペンギン、それどうしたんだ?」
屈み込んだクルーの目線にある、俺の手に巻かれた包帯を見て疑問を投げ掛けられる。俺は、ちょっとな。と言葉を濁しモップを動かした。
血が滴る程強く握り締めていたこの手にはもう、痛みは無い。
あの時、本当は焦りと怒りで冷静になどなれなかったが…船長に任された以上、クルーを纏めるしかねぇ。
だがまさか…シャチに助けられるとは思わなかった。確かに、今は嘆いてる場合じゃない。
正直、ミラーが居なくなった事で、ここまでクルーが動揺するとは思わなかった…勿論、自分自身の心情にも多少驚いている。
俺達ですらこんなに心が揺れているんだ…船長のそれは、俺等の比じゃないだろう。
俺は腕を休める事無く、ミラーが消える直前…船長室で交わした会話を思い出していた。
――――――----
「トナカイが嘆いてましたよ。全身が痛いと」
船長室に入るや否や投げ掛けた俺の言葉に、ベッドへ身を預けた船長は盛大な舌打ちを寄越す。
「船長…僭越なのを承知で言わせてもらう。ミラーを迎えに行ってやれ」
俺は帽子を脱ぎ去りソファーにドカッと腰を下ろし、部下としてではなく…同郷のツレとしての顔を向けた。
「アンタも言い過ぎたって思ってるんだろ?ミラーだって反省してるさ」
床に転がる空瓶をゴロゴロ足で弄びながらそう告げる。船長は未だ何も言わず、何か考え込んでいるようだ。
「トナカイに口止めしたとこを見ると、無意識に足が向いちまったって事か?」
(すげぇ睨んで…俺に、忘れろ。って言ってきたんだ)
「ミラーは…凄く落ち着いて寝れたと言っていた。誰のお陰だろうな」
それを最後に俺は顔を引き締め、再び帽子を深く被り直して立ち上がる。ツレとしてのお節介は、ここまでだ。
では俺は、そろそろ行くとしますよ。そう伝え扉へと向かう俺の背中に、やっと船長が声を掛けてきた。
「…ミラーを此処へ呼べ」
不貞腐れたように吐き捨てる船長も、実際そろそろ限界なんだろう。
俺は弛んだこの口元がバレぬよう、後ろ手に返事を示し、足早に部屋を出た…
――――――----
せっかく船長が一歩進む気になった瞬間、この事態だ。麦わらの野郎…目的は何だ?
「…進路を確認してくる。引き続き頼むぞ」
いくら考えても、麦わら達がミラーを連れ去った理由が分からない。俺は一端頭を冷やすため、清掃から外れた。