BOOK4
□No.65
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勢い良く開けた扉の向こうには、電球の光に眩しく反射したタイルと、ずぶ濡れのシャチ…そして力無く項垂れたベポの姿。どうやら丁度終わった所のようだ。
「せ、船長?!何でここに…?!」
思わぬ訪問者に慌てる2人にタオルを放り投げ、風呂に入るから出ていけと手短に告げた。
「シャチ、お前はペンギンを手伝え。俺の部屋に居る。ベポは俺の部屋で水風呂にでも入ってろ」
恐らく潜行中なのだろう…異様に熱気が籠る船内に悪態をつきつつ、パーカーを脱ぎ去り、呆然と俺を眺める2人にそう告げる。
…船長?と何やらシャチが、最後甲板で別れた時とは違い殺気を消した俺の様子に、困惑している様子だ。
ベポは余程身体がダルいのだろう。虚ろな目で俺を見つめていた。
「フッ…ベポ、麦わら屋の船が見えた時、暑くて動けねぇなんざ下らねぇ言い訳は聞かねぇぞ」
しっかり働け。ニヤリと口角を上げそう言い放てば、そんな俺に2人は分かり易く顔色を明るくした。
「船長!!絶対ミラーを取り返すッスよ!!なぁベポ!!」
「アイアイ〜ッ」
フフッ…俄然ヤル気になったようだ。
当たり前だろ…そう鼻で笑う俺を見て更にテンションを上げたシャチの背中に、ミラーが選んだ“アイツ”の居場所を教えてやる。
「浴室にミラーの出した答えがある。見といてやれ」
それだけでこの意味を理解出来る筈もねぇシャチに、行けば分かる。とだけ告げ、俺は2人を浴場から蹴り出した。
ぬるめに設定した湯が浴槽に貯まるまでの間、備え付けのシャワーから降り注ぐ冷水を浴び、頭をクリアにする。
まさかペンギンが…あの酒をまだ、栓も開けず取っておいたとはな。
(海へ出る。お前も来い)
遠い北の海に位置する島で、アイツに渡した特上酒…この世に3本しか存在しねぇ限定酒だ。忘れる訳ねぇ。
この船で、俺に真正面から意見出来るのはアイツぐれぇさ…だから来たのだろう。
…抑える事無く放った殺気を必死に耐えながらも、好き放題言いやがって。仕舞いには、自分にとって特別な酒まで寄越してきやがるなんざ…
全く…俺もまだまだだな。まさか、こんな形でクルーに気を使わせる日が来るとは…
「はぁ…」
ミラー、お前はどこまで俺を掻き回す。
“キュッ…”
コックを捻り流れを止める。充分に貯まった浴槽に身を預けながら、再び考えた。
(俺達に、明日の保証は無い)
今更ながら、ペンギンの放ったあの言葉が突き刺さる。
さっきまでは、今朝…酒が抜けきり冷静に戻った頭で、馬鹿みてぇに意地張って一人部屋に戻ったあの時の自分を消し去りたかったが…
だがそうだ…過去の自分を悔やんでも始まらねぇ。
今手元に居ねぇなら、再びこの手で取り戻すまで…そしてもう二度と、一人にはさせねぇ。
俺はその決意を胸に顔を引き締め、勢い良く飛沫と共に立ち上がった。
一人の男としての顔は洗い流した。ここからは、海賊団を統べる頭としての俺だ…これ以上アイツ等に情けねぇ姿を見せる訳にはいかねぇ。
軽く汗を含んだパーカーには袖を通さず、上半身裸のまま浴場の扉を開けた。