BOOK4

□No.68
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無事笑顔と共にこの船へ戻って来たミラーにホッと息をつく暇も無く、また別の感情が胸を占め始める。


一秒でも早くその感情を吐き出すべく、俺は賑わう騒ぎの中心に歩み寄り、クルーを掻き分け、誰よりも派手に顔面を汚しミラーに抱き着くベポとシャチを引き剥がした。


「ミラー…俺達の意識を掻い潜りこの船に乗り込んだその手段も、お前のその奇抜な格好の理由も、後でゆっくり聞いてやる」


安堵と共に再発した怒りを、鋭く放つ視線に含め、ん?と首を傾げるミラーを見下ろし続ける。


「麦わら屋は何処に居る」


顔に影を作り言い放った俺の問い掛けに、周りのクルーも再び緊張を露にし息を呑んだ。


俺の質問と一変した場の空気を感じ、何か思い出した様に、ハッ!!と目を見開いたミラーが慌てた様子で言葉を放つより早く、普段とは違い焦燥に駆られたペンギンの声が響いた。


「船長ッ…トナカイが居ない!!」


『え?!居ない?!』


その言葉に先程ミラーが姿を現した柵の位置に目をやるも、其処には困惑気味にそこから下を覗き込むペンギンの姿のみ…


「…落ちたか」


『お゙、落ちた?!』


あの野郎に意識は無かった筈だ。そう告げるも、当のペンギンはかぶりを振る。


「この高さから落ちれば、確実に飛沫と水音が上がるでしょう…この場に居た俺がそれを見落とす筈無い」


強くそう言い切るペンギンの鋭い視線が、静かに辺りを窺うように動く。


『…良かったぁ、落ちてなくて…』


ホッと胸を撫で下ろした後、罰が悪そうに顔を歪ませるミラーを尻目に、俺はペンギンの元へと静かに歩み寄り、その水面へと視線を走らせた。


『あの、あのねロー!!皆も聞いて?!今回の事は事故だったの!!』


慌てて駆け寄って来たミラーが事の成り行きを必死に説明しだすも、俺には関係のねぇ話だ。


そして俺は先程も確認した、海面に浮かぶあの違和感を見つけ…静かにミラーへと向き直った。


「あの位置には何がある。正直に言え」


迷いなく、スッと俺が指し示す海面を見やり…ミラーが分かりやすく狼狽えだす。


『え?!な、何かある?!私には見えない!!何も見えないッ!!そ…それよりロー!!約束して?!麦わらの一味に喧嘩売らないって!!』


俺に詰め寄り慌てふためくミラーにペンギンが声を低く、牙はどうした?そう尋ねる。


『あう?!う、うんッ!!有りますよ?!ちゃんと有るし何の問題も無いから大丈夫!!』


分かりやすく目を泳がせるミラーと向き合ったまま、俺はペンギンへと視線を送る。


そんな事よりもね?!そう尚も喚くミラーを放置し、俺が言わんとする事を察し一人黙って船内へと向かうペンギンのその背中を見送った。


自分がどれだけ麦わら屋の船で世話になったかを懸命に力説するミラーの話にも全く聞く耳を持たず、溢れる怒りを全面に出す俺に、段々とミラーの物言いも乱暴になる。


『あの船の人間は、私達とやり合う気ねぇんだってば!!とりあえずその殺気を抑えて!!テメェ等もだぞ?!』


その物騒なもん仕舞え!!そうクルーに顔を向け怒鳴るミラーにため息を一つ吐き、俺は綺麗に整えられたその頭にソッと手を伸ばす。
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