BOOK4
□No.73
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ドアノブに手を掛けた所で、ふと思い直す。
起こすなって言われてたんだった…どうしよ…入ったら不味いかなぁ…?
でも…うーん…そう扉の前で頭を抱えていると、私の周りをアノ膜が覆った。
『え…は?』
「遅ぇんだよアホ…」
もっと早く来い。乱暴な言葉とは裏腹にどこか柔らかい声に導かれ、ソッと顔を上げれば…満足気に笑ったローの顔が…ドアップ!!
『ぬうぉ?!なッ!!ほ?!』
どゆこと?!いつの間にかローの足の間に収まってる自分に、軽くパニック状態な私の頬目掛け、ローが唇を当ててきて更にパニック。
『おッ、起きてたの?!』
飽きる事無く、色々な箇所に唇を寄せるローに疑問をぶつける。起きたら迎えに来るって言ったくせに!!
「俺が迎えに行けば、とっくの昔にお前は此処に居る事になったぞ」
その前にあの場へ行かせてねぇよ。不敵に笑って、反対側の頬に唇を移動させるローは、私が満足いくまでクルーとの時間をくれてたみたい…本当、実は優しいんだよなぁ。もっと主張すれば良いのに…
『ロー…この前はローの気持ちも考えないで、勝手な事して…本当にごめんね』
理由も分からず、ただ謝ってた時とは違う。今は、多分だけど…ローが怒ってた訳が分かるから。ちゃんと理解した上で謝りたい。
「フッ…どうやら俺は…自分で思う以上に独占欲が強ぇみてぇだ」
私の謝罪に顔を離したローが、コツンッと額を合わせそう言って笑った。
「あんな最悪なタイミングでお前が消えるとは思わなかった…」
そう苦笑を漏らすローに、本当最悪のタイミングだね。なんて私も苦笑い。
『でも、離れたからこそ分かった事もあるから…必要な時間だったとも、思えるよ?』
この世に無駄な時間なんて無いもん。そう静かに笑う私に、ローもあの困った様な最高の笑顔をくれた。
『これからは喧嘩しても…言いたい事はちゃんと言おうね。訳も分からず離れるなんて嫌だ…』
そうだな…って私の頬を包み込んで来たローが、じゃあ言わせてもらう…と、キリッと顔を引き締め真っ直ぐ私を見つめてくるから、思わず身体が硬直。早速ダメ出し…?
「ミラー…風呂入るぞ」
…は?風呂?え…えッ?!まさか私臭い?!それはヤバい!!
ドンッてローを突き放し、サササーッと慌てて後退り。必死に自分の体臭を確認するも、自分じゃ分かんねぇ!!
そんな私を呆れ気味に見やり、サッサとタオルを掴み浴室へ進むロー。穴があったら入りたい…いやむしろ掘りたい、今すぐ私を埋めてくれ!!
「勝手に妄想すんのは構わねぇが、早く来い」
ため息混じりに促され、仕方無くローの背中を追う。臭い女ってどうなのさ…むしろ女失格…ただでさえ女らしさ皆無なのに…
『ロー…本当に私みたいな女で良ぶべ?!』
脱衣所に入るなり、いきなり湿ったベタつく布を顔面に押し付けられ、謎の奇声がッ。ぶわ?!まっず!!口に入った!!何これ?!
「おら口閉じろ。舐めるなよ?目もしっかり閉じとけ」
優しく布で私の顔を拭うローに、言いたい言葉を飲み込んだ。今口開けたら激マズの、多分有害な液体が体内に入る。
「馬鹿みてぇに塗りたくりやがって…化粧なんざしなくて良いんだよ」
目ぇ開けて上向け、アホ顔まで上げんな。何処かで聞いた事のある台詞に黙って従い、ローが私を解放した頃には、すっかり顔面がサッパリしていた。
『化粧…そんなに似合わなかった?』
ペンギンさんは紳士だから、フォローを入れつつ否定してたのかもしれない…そう思えてきて多少落ち込んでいると、大きく響いたローの不機嫌な舌打ち。
「それ以上女になる必要はねぇって言ってんだよ」
プイッと顔を逸らし、ぶっきらぼうに言葉を寄越すローの背中が、心なしか決まりが悪そう…ふふッ!!
『ロー君、それはどういう意味だね?』
分かりやすく説明してごらん?ん〜?
ニヤニヤ笑う私に、バシッてローがさっき私の化粧を拭き取った布を投げつけてきた…ぶうぇ?!まじぃ!!
「早く口をゆすぐんだな」
面白そうに私を見やり浴室に消えるローの背中に舌を出したら、更に苦い風味が口全体に…うげぇ…