BOOK4
□No.9
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シャチが置いて行った荷物を拾い上げるローの姿を、私はただ呆然と眺めてた。
そして…再びこの右の掌に走る、一筋の傷に視線を落とす。
これは私が…未熟者な証…
『ッ…』
初めて…初めてこの子に拒まれた掌が、ズキッと痛んだ。
あの時…急に向けられた殺気に、無意識の内背中の牙に手が伸びて、そのまま盾にすべく引き抜いたけど…この子を構えようとした瞬間、私の手は勢い良く弾かれた。
そう、この子自身に…
この子はもう、私を相棒として認めてくれないかもしれない。
「今日はもう、戻るか?」
心配そうに顔を曇らせるローが船へと促す。
『少し…散歩しよっか』
それに従わず、街に向かって歩き出した私に何も言わないで付き合ってくれるローは、心なしか落ち着きが無いのは…きっと気のせいじゃないよね?
(…限界だったか)
ローは一体、何を知ってるの?私には言えない事?
私は目に付いた公園にローを誘い、こじんまりとしたベンチの横に牙を下ろして、自身も腰を落ち着かせれば、隣でローもそれに倣う。
『ロー、私…驚いたりしないよ』
だから話して?そう真っ直ぐ向けた視線を逸らされ、私は確信した。ローはこの子について…何か重大な事を隠してる。
(牙は出すな)
さっきのローの剣幕…その有無を言わさぬ物言いに、前回喧嘩した時の教訓を生かして大人しく従ったけど…その理由は何だったの?
『………』
ただジッと、ローがその口を開くのを待つ。
傾きかけた陽の中で、ニャンコが本日最後の温もりを身体に貯めてる姿しかない、静かな公園にやっと声が響く。
「前に…牙を研いだジジィが居ただろ」
『…カキツ、だっけ?片目のジィさんでしょ?』
覚えてるよ…忘れる訳無い。私の言葉にローはゆっくり帽子を被り直して続けた。
「あのジジィの目を奪ったのは…かつての相棒なんだとよ」
その言葉に、ドキッと跳ねた心臓…
ローの言う“相棒”ってのはきっと、人間の事じゃない…私の“相棒”と同じ意味。
ジィさんは、相棒に見放されたから、あの目を無くしたの?私もいずれ…何かを無くす?
私が未熟だから…本当はこの子はずっと…私じゃ、不満だったのかなぁ…私じゃ…駄目だった…?
このままじゃ…見放される。