BOOK5
□No.11
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“ペンちゃん、俺が置いてった酒は旨かっただろ?今度はゆっくり飲み交わしてぇな!!”
ミラーから受け取った奴からの手紙を読みながら、この顔に思わず苦笑が浮かび上がる。
ジロンギー…お前の置いてった酒は飲めなかったよ。どっかの目ざとい男に取られちまったからな…
前回以上に長々と、近状や俺等に向けた言葉が綴られた手紙は、中々読み応えがあった。だがやはり一番気になるのは、ミラーの笑顔のようだ。
(お前は監視役を頼む)
すまないなジロンギー…あの人は一度、ミラーを泣かせちまった…あの約束はこれから、必ず果たしていく。それで許せ。
“このままだと俺が先に入る事になるだろうよ!!お前等、あんまチンタラしてんなよ?!”
「…新世界で待つ、か」
そう締められた手紙を丁寧に封筒へ仕舞い、俺は懐に納めた。
広い甲板で一人穏やかな陽射しを浴びながら、優雅に空を仰ぐ。たまには、こういった時間も悪くない。
静かに響く波音…遠くで響く街の喧騒に、頭上を旋回するカモメの鳴き声。そして…
「ニャ〜オ」
………ハァ。
「…何だってあんなに沢山居るんだよ」
すぐ傍の岸辺で、俺同様朗らかな陽を浴びながら鳴き声を発する奴等に向け悪態をつく。
俺は摘まみ上げられる程度の小動物は、どうも好きになれねぇ。アイツ等、自分の価値を分かってやがる…
どういう仕草をすれば自分が可愛らしく見えるか、キッチリと理解してる所が鼻につく。猫はそれが顕著だからな…特に苛立っちまう。
本当は上陸しても構わなかった。だがこんな島に足を踏み入れても、ストレスが溜まるだけだろう…
何より確実に、俺は足元で身をよじらせ擦り寄る猫共を蹴散らしてしまう。そうすれば、ミラーが嫌な顔をするのは目に見えているからな…
「……ー…ーゥーーッ!!」
あの鳴き声さえ無けりゃ言う事はないんだが…そう舌打ちを漏らしていると、遠くから聞き覚えのある声が、着々と近付いて来ていた。
「ベポ、どうしたんだ?」
その声の主…泣きそうな顔で勢い良く舞い戻って来たベポにそう尋ねるも、奴は俺には目もくれず…一目散に船内へと駆け込んで行く。何だって言うんだ。
ベポの謎の行動に眉をひそめつつ、慌てた様子のその背中を追った。
そして辿り着いた先は浴場…何故だ?
「ベポ、何があった?」
派手に脱ぎ散らかしたツナギを纏め直し、中から水音の響く扉を開け、そのデカく白い背中に問う。
「ウーッ、ペンギン!!変、何か変!!」
「………ベポ」
変なのはお前だ。
「何処でそんなもん覚えてきた…」
お前に限って、そんな事は無いと信じたい。
だが何故…何故そんなに勢い良く、自分の股間にシャワーを当てている…
「お股が…お股がね?!痒いの!!」
……は?
「熱いお湯当てると、少し治まるみたい…」
そう言って更に水圧と共に水温を上げるベポ。
「…そうか。大変だな」
俺はそれ以外、何て言えば良いんだ。
呆れ返る俺を気にする事無く、半泣きのベポはひたすら股間に熱湯を流し当て続けていた。全く…何故そんな事になったんだよ。
「はぁ…汗疹か?」
その質問にベポはかぶりを振る。こいつ曰く、デキモノや虫刺されの類いでは無いらしい。
「なんか内側から痒いのーッ!!別に腫れてもないし、何もデキてないよ!!」
フギャーッ!!って…いや、逆ギレされても困るんだが。まぁ、とりあえず放置しておくか。
他に何か異常が出れば知らせろ。それだけ告げ、俺は湯煙が立ち込める浴場を後にした。