BOOK5

□No.12
1ページ/2ページ



『そう言えば…さっきの酒屋であのオジさんさぁ、何か言いかけてたんだよねぇ』


気になるな〜。そう上の空なコイツの手を引き、足元のデブ猫を避ける。


「少しは前見て歩け。お前が転けても俺は助けねぇぞ」


巻き沿いはごめんだ。そう俺が小馬鹿にするよう笑うと、ミラーは必要以上に顔を強張らせ、足元へと視線をやりだした。


柄にもなく繋いだ、俺の右手が暖かい…たまには、こういうのも悪くない。


無駄に真剣な眼差しを向け、道端でくつろぐ猫を避けて歩くミラーはきっと今、その脳内で下らねぇ遊びを始めたんだろう。


「あいや〜キクちゃん!!あーんた、どっからソレ捕ってきたんねぇ?!誰の仕業かー?」


隣でニコニコ楽しそうなコイツに苦笑していると、すぐ近くの民家からそんなしゃがれた声が響いた。


随分と声のでけぇババァだな…そう呆れている所に飛び込んだ言葉に、俺は足を止める。


『っとばぁ?!ロー?どしたのさ急に立ち止まって』


せっかく14ニャンコまで行ったのに!!などと怒るミラーを引き、ババァの元へと歩み寄った。


「おい、その話…詳しく聞かせろ」


いつもの調子で見下す様に腰の曲がったババァへ視線を落とすと、ビクッ!!とその表情を固めたババァと視線が交わる。


「なんねぇアンタ等。アンタ等ねぇ?ウチのキクちゃんにコレやったんわ?」


ババァが、コレ。と示す先を見て、今まで隣で困惑していたミラーが、げぇ…と顔をしかめだす。


「アンタ等他所者やろがぁ?いかんよぉ、島の猫に安易にやったら」


その言葉にミラーも興味を持ち始めたようで、だからどう言う事か説明しろ。そう凄む俺を小突いて来やがった。


『ごめんねお婆ちゃん、コイツちょっと俺様なもんで…それよりソレ、食べたらどうなるんですか?』


今度はミラーが、ソレ。と指す物。昼間ベポが食ったあの奇っ怪な魚の丸焼き。それより、なんだよ俺様って…


「なんねぇアンタ等、知んのかいやぁ。コレはねぇ、えぱーらしてんぐ・ひっしゅう言うんよ〜」


『えぱッ、天狗?えッなに?!』


だぁから〜!!と再度ババァは説明するが、どうも年寄りは横文字が苦手だ。全然聞き取れねぇ…


「…で、ソイツが何だ」


分かんねぇよもう一回!!そう躍起になっているミラーを抑え続きを促す。名前などどうでも良い。


(アンタねぇ〜、こぉれ食べたら大変な事なるよ〜?!)


あの言葉の意味を教えろ。


『あッ、そうだ…これ生じゃ食べれないけど、焼くとスッゴい美味しいんでしょ?でも食べちゃ駄目なの?』


何で?そう首を傾げるミラーに、やっと俺等の求める答えが来た。


「コレねぇ、身が40度以上になると、毒出来るんよぉ。やけぇ食べちゃいかんよ〜?」


『毒ッ?!』


目を見開くミラーが、毒って何?!死ぬの?!などと勢い良くババァに詰め寄るが…余り刺激を与えるな。ババァの心臓が先に止まっちまうだろ。


「だ〜いじょうぶだぁ。ただちょ〜っと大事な所が痒くなるだけだよぉ」


なはははッ。と笑いだしたババァにミラーと顔を見合わせる。大事な所ってどこだよ。


ミラーが俺と同じ疑問を投げ掛け、ババァから寄越されたその答えに…繋がれた俺の手を抜け出したミラーの奴が、腹を抱えて盛大に声を上げ笑ったのは言うまでもねぇ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ