BOOK5
□No.14
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船首位置の柵に堂々と座り込むミラーの足元で、期待の眼差しを向け見上げるクルーのソワソワした背中を少し離れた場所から眺めつつ、俺は酒へと手を伸ばす。
「アイツ等…まるで犬ですね」
尻尾が見えそうだ。そう笑うペンギンが俺の隣に腰を落ち着かせると同時、コイツも自身が持つ酒の栓を開けた。
「シャチの野郎…報告もしねぇで夢中になりやがって」
満足気に、あの時ミラーが選んだ酒を飲むペンギンの横でそう悪態つき…俺も手元の酒を煽る。
ミラーに促され足を運んだ甲板で見付けたシャチの姿へ、俺が声を掛けるより早く…あの野郎はミラーの腕を引き、早く手紙読もうぜ!!と行ってしまった。
「船長も既に?」
アイツが焦らしながら、あの手紙の冒頭に書かれていた挨拶を読み上げると同時に沸き起こったクルーの歓声を聞きつつ、ペンギンが俺へと尋ねる。
も、って事は…コイツも既に読んだのか。
俺が、あぁ。と軽く頷いたのを確認し、ペンギンがその懐から何かを取り出し俺へと寄越して来た。
「明日13時半、そこに集まるらしい」
ピラッと差し出された紙に描かれた地図を見ながら、あの馬鹿から受ける報告より、楽に話が進みそうだ。そう安堵し続きを促す。
「どうやらこの島に居る海賊団は、皆一様に…一つの組織に属してるようだ」
吐き捨てる様に言葉を放ち酒を流し込むペンギンの口元は、珍しい程に苦々しく歪んでいた。随分と面倒な相手のようだな…
「黒幕は誰だ」
コイツの表情からして、厄介な奴がその背後に居るんだろう…そう思い向けた質問に、意外にもペンギンはかぶりを振る。
「トップに居る人物が面倒な訳じゃない…その所業が、俺等の掲げた旗印に反する事だってだけです」
蔑みを含む声色を寄越したペンギンに、俺もスッと顔色を変えた。
「まさかソイツ等…」
低く漏らした俺の言葉に、そのまさかですよ。そう言い放ち、奴は酒を一気に飲み干す。
「この前モスキー島で船長が潰したあの船…アイツ等も、そこの幹部だったらしいですよ」
「ほぉ…」
あの程度で幹部とは…底が知れる。妖しく口元を歪めるペンギンの言葉に、賛同の意を込め俺も酒を煽った。
「明日…ミラーとアイツ等をぶつける気ですか?」
チラッと視線を寄越して来たコイツに、そうだ…と告げ、帽子に手をかけ答える。
「シャチの話では、全部で100強…数としては充分でしょう」
「そうか…」
その相手の人数に、これで何とか牙は鎮まるだろう。そう多少安心する俺へと、次いで向けられたペンギンの言葉は…再び俺の眉間に皺を寄せる事となった。
「持っていなかった訳では無いでしょう」
そう言って俺を見るコイツの目には、微かに怒りが滲んでいる。
今回ばかりは俺も罰が悪く、歪んだ表情を逸らす他無かった。
(海楼石はどうしたんですか)
俺だって後悔してる。