BOOK5
□No.17
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「おらティミード、余所見すんな。ブロウさんの話が始まるぞ」
「あ、すんません」
隣に立つ頭に肩を小突かれて、慌てて俺は視線を前方に戻した。
チラッと確認した時刻は、きっかり13時。アイツ…来なかったな。
昨日、結構酔いが回ってた俺を散々殴ったアイツ。名前も知らない変な男だったけど…
もしアイツが来たら、俺はまず頭にアイツを紹介して、そんでブロウさんに取り次いでもらうつもりだった。
そうすれば俺も、やっと兄貴分になれたかもしれない…直接俺等の船に加わらなくても、組織の新入りには変わりないもんな。その時は俺と交代だ。
けどアイツは来なかった。つまりは今までと何も変わらない…俺が一番下の立場。
あー…早く新しい奴来てくれよぉ。本当そろそろ下っぱ卒業したいんだけど…そんな事を考えてたら、不意に周りの空気が変わった。
「ご機嫌麗しゅう僕の優秀な部下達よ。ふふッ…今日この場に集まってもらったのは、他でもない…」
簡易ステージに上がった、派手な衣装を纏う俺達のトップ…ブロウさんの話が始まると同時に、人里離れた巨大なこの倉庫の中は静寂に包まれた。
「先日我等の同胞、イディオットの船が謎の失踪を遂げた…確認の為、明日にでもモスキー島に…そうだな、モブ海賊団に行ってもらおうか」
俺達に向けられたその言葉に、隣の頭達と一緒に背筋を伸ばす。
モスキー島か…正直上陸はしたくないな…“アレ”があるとは言え…暑いんだよなぁアレ。今回は誰が上陸する事になるか…まぁ、下っぱの俺だよな…
「あぁ、それから昨日ぺティ海賊団が何者かにより消されたよ」
まぁ、あの新米達には期待なんて微塵も無かったけどね。なんて、涼しい表情で淡々と述べるブロウさんから、俺は思わず視線を逸らす…
俺等は違うよな…あんな使い捨ての奴等とは、俺等は違う…
「イディオットの船が戻らない以上、前回の収穫は0と言う事になる…つまりは、大赤字だ。実に屈辱的だね…」
ふっふっふ…と冷めた笑い声に同調する者は居ない。今声を上げれば、確実に殺される。
「モブ海賊団には明日、通常の倍は運んで行ってもらおう」
頼んだよ?口元だけ歪めて笑うブロウさんに、俺達は声を揃え承諾した。
…海賊になれば、毎日遊んで暮らせると思ってたけど、実際そんなの力のある人間だけ。
俺みたいな…戦闘力もなければ、秀でた知識も無い人間は、このグランドラインで生きていけない…
能力者が蠢くこの海で、頭に拾ってもらえたのは本当に運が良かった。トップのブロウさんは恐ろしいけど…お陰で毎日美味い酒が飲める。
ヘマさえしなけりゃ、信用も金も手に入るんだ。悪い話じゃない。ヘマさえしなけりゃ…これからも楽しく過ごせる。
「では諸君…取り掛かろうか」
天を仰ぐ様にブロウさんが両手を高らか上げたのを合図に、この場に集まった者達はそれぞれの持ち場に移動した。