BOOK5

□No.18
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俺の足元まで、まるでボールの様に軽々転がって来たソレに目をやれば…その表情は、困惑したままで固まっていた。


奴は自分の心臓が動きを止めた事をまだ…いや、一生理解出来ぬままだろう。


「…まだ重そうだな」


少し離れた先に居る、凜とした背中を見つめていた俺の隣で船長がそう呟く。


余裕のある顔をしているが、実際の所…船長も内から湧き上がる殺意と不安を、必死に抑えている事だろう…俺と同じ様に。


「なんかミラーの奴…いつもと雰囲気違くないか?」


そんな船長の更に奥で響くシャチの声。その言葉に、俺は再び前方へと視線を戻した。


牙を振り、伝う血を軽く払って巨大な倉庫の入り口へと歩み寄るミラーの背中は、確かにどこかトゲトゲしい…


「船長は…どう思いますか?」


その背中が語る心情が分からず、俺は隣で堅く腕を組む男へそう尋ねる。


「心配するな…のまれちゃいねぇ」


相変わらず鋭い眼差しを送っていた船長は、強くそう言い切った。それは願望と言うよりも、確信を含んだモノのような気がした。


船長からあの海楼石の腕輪を受け取り、躊躇いなく牙を抜いたミラーから感じたのは…純粋な怒り。


それはミラー自身の怒りか、または牙の怒りか…


だが船長が大丈夫と言うんだ。船長なら俺が気付けない、芯の部分まで気付いているんだろう…


深呼吸を一つ、そして上げた目線の先には、倉庫の扉へ手をかけたミラーの姿。


相変わらずその背中は怒りに満ちていたが…心配は無い、あれはミラーだ。


「…手を出すなよ」


“ガゴーー…ン”


船長に促され、邪魔にならぬようスッと脇に移動すると同時、重く閉ざされた悪への扉がミラーの手により開け放たれ…その全貌が明らかとなる。


「遅かったなティミー…って、誰だお前?」


新規の客なら後にして…逆光で上手く確認出来ぬその姿に近づいて来た男は、最後まで言葉を放つ事無く、その手段を失った。


「お頭?!だッ、誰だ貴様!!」


「ななッ何者だ?!」


何しに来やがった?!ミラーの足元で、無様に崩れ落ちる胴体から切り離された首が地面を転がる音は、喚き散らす奴等の怒号に紛れて消えた。


『私が誰か…そんなの聞いて、どうすんの?』


どうせ覚えてられないくせに。静かに告げるミラーの手元から血が伝い落ちる。


「ッ?!船長!!」


俺が隣にバッと顔を向け声を荒げるも、船長は黙ったまま…ただひたすら、見守る姿勢を崩さない。


「あれ…何で?今…ミラー何もされて無いよね?」


困惑するベポはその臭いを感じとったようだ。唯一分かって無いシャチが、オロオロして俺に説明を求める。


「アレは…返り血だけじゃない。ミラーも出血しているようだ…」


「なッ?!またかよ!!」


思わず、握る拳に力が入った。本当にこんな方法で牙は元に戻るのか?もし戻らなければ…ミラーはどうなる?
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