BOOK5

□No.18
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言い知れぬ不安が込み上げる。本当にこのまま…ただ傍観しているだけで良いのか?


今までとは違う…手を伸ばせば届く距離に居るんだ。助けられる場所に居る。


「結構いっぱい居るよ…?!ねぇ本当にミラーだけで、一人で平気かなぁ?!」


顔を曇らせるベポの叫びに、シャチがソワソワと落ち着きを無くし始めた。


あんな雑魚共が何人束になろうと、意味は成さねぇだろう…問題はソコじゃねぇ。


葛藤する俺を差し置き、やっぱ俺等も!!そう飛び出すシャチの首根っこ掴み引き戻す船長の顔は、意味深に妖しく歪んでいた。何か…感じ取ったのか?


「フッ…安心しろ。大丈夫だ」


アレは問題ない。そう口角を上げる船長に何も言えぬまま、奥の喧騒だけが増していく。


船長にしか分からない何かが在るのは分かっている。俺ではソコに到底辿り着けぬ事も…だが今だけは…クソッ。


「船長、いい加減説明し「テメェ等やっちまうぞ!!」…」


船長に詰め寄る腕を解かぬまま、俺は顔だけを本格的に動き出した騒ぎの中心へと向ける。


『数いりゃ良いってもんじゃなぁ…ねんだよ!!』


そして勢い良く駆け出すミラー。


「黙って見てろ」


お前等の仕事は後片付けだ。シャチをなだめ俺を押しやりながらも、見つめる先に居るあの背中を捉えて離さない船長の真剣な顔を見て、俺は視線を落とした。


「………フー…」


深く息を吐き出し再び顔を上げる。今は黙って見届けよう…その姿を目に焼き付けよう。


「…いつまでも騒ぐなシャチ。奴等の目が俺達に向けば、ミラーの闘いに水を差す事になるぞ。こういう時は信じるんじゃなかったのか?」


俺の言葉に、う"ッ…!!と顔をしかめたシャチを無理矢理後ろへと追いやる。


分かったよ見てれば良んだろ?!そんな強気の発言とは裏腹に、辛そうに歪んだ顔が目に入り思わず苦笑が漏れた。


コイツを見ていると、感情が面に出難い自分自身に多少安堵してしまう…


船長には今の、俺のこの心情を知られたくない。それで良い…俺は船長に従うと決めている。それが俺の望みだ。


「少し目を離したスキに、もう半分ですか」


瞬足の殺し屋は健在ですね。そう笑う俺に船長も、目を離してる暇なんざねぇぞ。と満足そうに声を寄越した。勿論、視線は前方を捉えたまま。


「ペンギン」


ゴロンッ、と…また一つ首の無い屍が増えたのを静かに見守っていると、不意に船長が俺を呼んだ。それに声だけで応える。


「無理に抑えるな」


「ッ?!」


そして響いたその言葉に、思わず隣を見やるも…相変わらずその視線は交わらない。全く…変に勘が鋭いのも困りモノだ。


「ふッ…ちゃんと自分自身に従っていますよ」


心配しなくともね。その返答に船長が言葉を続ける事は無いまま、俺も再度視線を戻した。


船長はまだ気付いていないだろう…気付かせるつもりもない。だがあの忠告に偽りの答えを渡したつもりも、同じくない。


俺は自分の意志で船長に従っている。


ーーーーーー---


着々と敵の数が減っていき、残り数人となったその光景に、背後の2人が少しずつ緊張を解き始め、俺はミラーの手元で黒く光る牙が暴れ出さぬか注意を払っている最中…見当違いの方向から、汚い悲鳴が上がった。


そしてシャチとベポが、ウゲェ?!と不快感を露わに声を上げたのと同じく重なった、俺と船長の舌打ち。



今は語らず見守ろう



(マジかよ何だアレ?!気持ちわりぃ!!)

(あれって仲間じゃないの?!)

(どこまでもクズだな…虫酸が走る)

(…能力者か)
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