BOOK5

□No.19
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久しぶりに他人の首を刈り取った牙は、吸い付く様に私の手に収まりだした。


最後に寄越した痛みはきっと“遅いんだよ馬鹿”ってメッセージだったんだと思う…


本当…待たせちゃってごめんね。待っててくれて…ありがとう。


「よくも…よくもお頭を!!」


懐かしい感触と共に、ズキズキ疼きだした掌…その痛みに込められた意味を噛み締めながら奴等と向き合えば、口々に放たれる酷い罵声。


でもお頭って…こんな奴がトップだったのかよ。


『久しぶりに顔晒してやるなぁ…』


解放感のある口元に手をやれば、思いの外その口角は上がっていた。何だかんだ言っても、この状況に心躍ってる自分がいる。


…って、私はあのサイコヤローかよ?!やっぱ血は争え無いのかなー…まッ、私は一瞬で終わらせてあげるけどね。


『アンタ等みたいな腐れ外道に、遠慮は無用!!』


ビシッと牙を向けそう言い放つ。覚醒剤っての?そんなヤク売りさばいてる奴等に、同情もクソも無いでしょ。


「クッソ…テメェ等やっちまえ!!」


オーッ!!と勢い良く突っ込んで来る、頭数だけは立派な奴等に、身体の芯からブルッと震えが湧き起こった。武者震いなんて…いつぶりだろう。


『痛みなんか感じる暇も無いけど…久しぶりだから、失敗したらゴメン!!』


そう叫んで飛び出した私の顔はきっと、満面の笑み。手元のこの子にも表情が有るなら、きっと私と同じ顔してる…やっぱ何か気持ち悪いから想像すんの止めよ…


「ッ?!はやッ…!!」


一気に第一軍の懐へと潜り込んで、奴等が刀を振り下ろすより早く、ブンッ!!と牙を振り切れば…あの独特の、骨を断つ感触と共に降り注ぐ鮮血。


その光景に動きを鈍らせた第二軍に、息をつかせる隙も与えず駆け出す。


人口密度が上がった一帯で、オロオロするだけの相手に牙を滑らせるのは至極簡単な作業だった。


どんなに頭数が多くても、その獲物が一人ならば、自由に動き回れないコイツ等の方が遥かに不利なのに…この馬鹿共に戦略ってもんはねーのかよ?!


『ちょっと?!少しは対抗してくんないと、私がいじめっ子みたいじゃん!!』


瞬く間に2桁まで増えた屍の山に、思わず違う怒りが込み上がる。弱い弱いとは思ってたけど…限度ってもんがあるでしょ!!


「クソッ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」


せっかくの晴れ舞台がこんなんで良いのか?!そう頭を抱えていると、少し距離をとった位置で、グルッと私を取り囲みだした新手の集団が銃を構える。あらら、いつの間にか結構中央まで移動してたのね、私。


「チッ、モブ海賊団は全滅か…だがここまでだ!!」


本格的に狙いを定め始めた奴等の手元を確認し、牙の持ち手から伸びる紐を手繰り寄せ…ズラッと綺麗に弧を描く首の並びを見回した。


「貴様の目的は何だ!!ブレイン・ヘブンか?!」


死ぬ前に答えろ!!とでも言いたげな声色でそう怒鳴りつけられたけど…何それ固有名詞?


『目的はまぁ、色々あるけど…とりあえず、私は正義の使者って事、でッ!!』


そう叫び思いっきり牙を投げつけ、勢い付いたソレから伸びる紐を、ブウォン!!って遠心力を利用して、思いっきり振り回した。


響く悲鳴に打ち付ける水音。だけど、予想以上に力を使うこの手法ではまだ、周囲を確認出来ない。


グイッと紐を引き手元に牙を戻した所で、やっとドミノの様にどんどん崩れ落ちる胴体を目で追えば…その流れは、円の8分目程で止まってしまった。


『んー、やっぱこの技はまだ未完成だなぁ』


一周分に満たない勢いでは、最後まで高さが維持出来ずに軌道がズレてしまうらしく…未だ地に足付く奴等は、胸元から僅かに出血する程度に留まっている。


鍛えなきゃなー…そうため息を漏らした瞬間、再び銃口が私を捉えだした為、私は慌てて牙を盾に身を隠した。
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