BOOK5
□No.20
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『おッ、あのニャンコ見て見て!!スッゲェ不細工!!って、あれ?…あ…』
歩き出してすぐ出くわした、潰れ顔の丸々太ったブサカワの足元で死にかけてるモノを確認して…私達はベポが慌てて駆け出したその理由を理解した。
「…ベポの奴、相当トラウマになってんだな」
“ビチビチッビチ”
『そうだね…このネタでベポをイヂるのは、止めたげようね』
必死に捕まえたんであろう獲物を一口かじった瞬間…般若みたいな顔に変化したブサカワが、スパーンッ!!と目にも止まらぬ猫パンチでショッキングカラーの魚をブッ飛ばした…相当不味いんだろうね、生だとさ。
「なぁ、ずっと気になってたんだけどよー」
ペッペッ!!と険しい顔で毛繕いを始めたブサカワを哀れみながらその横を通り過ぎた所で、常に頭の中疑問で溢れてるシャチが声を寄越す。
「ソイツって話すの?」
ソイツ、と指すその指先は私の背中を示していた。
『さぁ、少なくとも私は話せない』
何となく、雰囲気で察する事はあるけどねぇ。そうノンビリ語る私に更なる追求。
「じゃあ何で船長は分かるんだ?さっきもよぉ、お前がブッ倒れた時…船長がサークル出しただろ?」
私とは逆に、熱く話すシャチの言葉をゆっくり待つ。
「そん時、お前に止められた後…船長に、本当にこのまま見てるんスかー!!って聞いたらよ、フッ…アレにまで止められちゃあ、これ以上踏み込めねぇだろ。って笑うんだよ」
どゆ事?!そう眉を寄せるシャチに、まずそのクオリティの低過ぎるローの物真似はどう言う事か尋ねたい。
「まず“アレ”って何?!って話だろ?ペンギンに聞いたら、牙じゃねぇの?ってなんか冷てぇしよぉ…」
もぉ俺分かんない!!そういきなり、プゥッ!!って頬を膨らませ始めたシャチに、私も分かんない!!って同じ顔をして見せた。
あの時…この子も私同様、サイケデリック野郎に対して怒ってたって事は分かるけど…そういえば最近、この子の感情が豊かになった気がするな。何でだ?
「おッ!!ミラー、って…お前いつまでそのアホ面してんだよ」
船あったぞ。呆れ声を寄越すシャチに顔を向ければ、膨らませた頬をブシュー…って潰されてしまった。
『うわスゲェ崖…ここだけ湾になってんだ。んー、思ったより小さいね。海賊旗も全然ひねり無いし…』
何処までもつまんない奴等だな。高くそびえる、絶壁に囲まれたこの場所が急に拓けたかと思えば…漁船らしき小さな舟と並んで揺れる目的の海賊船にガッカリ。
再びムクれる私に同意するシャチと共に、私達の船の半分程しか無い船内に乗り込み、とりあえずは武器庫を探した。
武器庫にある火薬を使って、この船を沈める為に…
そう、目的は武器庫ただ一つ…だったんだ本当。いや本当だよ?本当その筈だったんだけどさ。
『見て見てシャチ!!…うー…ベポー!!』
「ブハハハハッ?!おま、完璧ベポだわそりゃ!!んじゃ俺は……フッ、黙れバラすぞ」
『アハハアヒ、あんた、それただの虎じゃん!!ハヒッ腹痛い!!しかもやっぱローのクオリティ低ッ?!もっと似せる努力しろよ!!』
武器庫を探す最中踏み込んだ広い部屋。この部屋を見付けてしまったのが運の尽き…
「シャチ、お前に付き合うと百害あって一理なしだ…もっと全うに生きろ。迷惑だ」
『ちょッ?!発言の割に顔可愛い!!ペンギンさんの顔すげぇプリティー!!その脱力顔のペンギン最高ッ』
バンバン激しく床を叩きながら、涙目で腹を抱える私達を取り囲むのは…様々なアニマル着ぐるみの数々。
何でこんなアトラクショングッズが、一海賊船にあるんだよッ…遊ばずには居られねぇだろ?!
『ハハハッ、無理腹痛すぎ!!ハハッ、ハー!!おもし、ろ……へ?』
仰向けに倒れ込み、盛大にのけぞり笑う私の目に飛び込む逆さまの時計。
えっと…逆向きだから、だよね?ちゃんと正面から見たら…ね、きっとそうだよね?
ゆっくりと時計に目をやったまま、ゴロン…と身体を回し、正しい向きからその指針を確認…した瞬間、私の血の気が一気にズササーッ!!と引きに引いた。
『ねぇ、シャッチン……』
「フヒッ、腹よじれる!!ヒヒヒッ、うわこの犬汗くせぇ?!ってミラー?どうした?真っ青だぞ?」
笑い過ぎたか?事の重大さを理解しておらず、尚もアニマル着ぐるみの山を漁るシャチをソーッと見やる。そして告げた事実にシャッチン、フリーズ。
『ふ、フッ…バラすぞ』
何とか場の雰囲気を和ませようとローの声真似をしてみたら、まさかの予想以上過ぎるその出来栄えに…私自身、ブルッと背筋が凍った…
「やっやばばばばい!!急げミラー!!武器庫、武器庫探せー!!」
『イエッサー!!』
ぶきこブキコ、武器庫どこー?!
でもあと30分以内に船に帰るとか、シャチの頭から疑問が全て消滅するぐらい不可能だから!!