BOOK5
□No.22
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「ほら、手ぇ出せ」
促されるまま椅子に腰を下ろし困惑する私の右手を取り上げたローの手には、消毒液。
あぁ、そう言えばちょっと切れてたんだっけ…もう痛みも無いから忘れてた。って私、色々忘れ過ぎじゃね?
「もう大丈夫みてぇだな」
記憶力が上がる食べ物ってなんだろ…魚か?んー…と頭を悩ます私に、ローが何処か安心した様な柔らかい声を寄越した。
『うん、怪我してんのも忘れてたぐらいだもん』
私は治癒力が高いのだよロー君。そんなドヤ顔向けていると、お前じゃねぇよ。なんてまさかの一蹴…私じゃないなら誰だよ!!
「…もう、重くさせるなよ」
不機嫌そうな顔の割には、優しい手付きで包帯を巻いていくローがそう言った事でやっと、さっきの言葉は私の相棒に向けてだと理解した。
『大丈夫!!もう反抗期はコリゴリですッ…それより、ローが持ってった腕輪は?どうしたの?』
同じ能力者のローが、アレを身に付ける筈も無いけど…確かにコイツは、俺が持つ!!って言ってたもんな。何処に隠し持ってるんだ?
帽子の中か?そう自由の利く左手をローの頭に伸ばしたら、んな所にある訳ねぇだろ。って睨まれた…じゃあ何処だよ。
「ったく…あれは俺の刀に付けてある」
分かったら大人しくしてろ。そう言って再び手元に視線を戻すローの背後に立て掛けられてる刀を見やれば、長い鞘に巻かれた紅色の紐の先に、あのリングが括り付けられていた。成る程ね。
「これから、戦闘時は渡してやる。首刈りに戻れるからってあまり調子に乗るなよ」
これ以上デカい傷は認めねぇ。包帯を巻き終え、ぶっきらぼうにそう言って立ち上がったローについ、は?と間抜けな声が漏れてしまった。
その声を受け、ピタッと動きを止めて私を見下ろすローの目が若干恐い…いやでもよ?
『私、毎回アレ使う気はないよ?』
周知の事実だと思ってたその言葉に、今度はローが、は?と眉を寄せた。なんで同じ言葉でもローが言ったら間抜けに聞こえないんだろ…ちょっと悔しい。
『アレを使うのはこの子がウズウズしてる時だけ。それ以外は今まで通りにするつもり』
言ってなかったっけ?そう首を傾げれば、何故かローはため息…あ、初耳でしたか。それはスイマセン。
だからまたお願いします。って笑って腕を差し出せば、どう言う風の吹き回しだ。なんて訝しんだ様子で尋ねられてしまった。
『どうもこうも…せっかく新しいストック用の器貰ったのに、使わないなんて勿体無いじゃん』
しかもローがくれたヤツなのに…腕を突き出したままブスっとして言う私に、ローは一瞬だけ驚いた顔を見せ、そして…眉を寄せ笑った。
「なら…また抜いてやらねぇとな」
今日は少しだけだぞ。そう治療器具の中から注射器を取り出し、再び私と向き合う形で腰を下ろしたローの顔は、心なしか機嫌が良さそう。
そういや、ローは最初から私が生身の身体になるのは反対だったもんな…だからずっとムスッとしてたのか?
『ふふッ…』
私の腕に視線を下ろす、その俯き気味の顔をジッと見てたら、思わず声が漏れてしまった。なんだよいきなり…ってローには気持ち悪がられたけど…
だって…だってだってローの目が…凄い嬉しそうなんだもん!!
でもそんな事言ったら、せっかくの可愛い顔が歪んじゃうから…絶っ対教えてあげない!!