BOOK5

□No.25
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「あッ、ペンギン!!イテテ…あのね、あのね!!さっきニュースクーが来たんだけどもしかしたら「すまないベポ、先にあの島のエターナルポースをくれないか」え?」


額をさすりながら興奮しているベポの話を遮り、加えて、その鼻血も早く拭け。そう伝えれば、既に鼻周りで固まり始めたソレにベポは酷く落ち込み始めてしまった。だいたい何故鼻血だ。


「ベポ、悲しむのは後にしろ」


お前がアレを持ってるんじゃないのか?そう急かす俺へ、あー…エターナルポースね。と眉をハの字にしたままベポはその懐に手を突っ込み始めた。ふぅ…ようやく動き出せそうだな。


「あれ……あれ?」


どれくらい流されただろうか…数十分の距離だと良いが…そう先の計画を立てている俺の耳に、出来れば聞きたくなかった嫌な声が響き…思わず、バッ!!とベポに顔を向ける。


「……どうした」


頼む…頼むから絶望させてくれるなよ…祈る思いでベポを見つめるも、心の底から願ったそれが奴に届く事は無かった。


浮かない顔のまま、スッ…と懐から引き抜かれたコイツの手に握られたのは、俺が求めるエターナルポースでは無く…いや、俺が求めるエターナルポース“だった”物と言った方が正しい。


“パラパラパラ…”


虚しく床へと崩れ落ちていった残骸。必死に違う物を想像するが…何度考えても、元の姿はあのエターナルポースにしかならなかった。


「…そうか…転けたのか」


ただのゴミと化した残骸を呆然と見下ろす俺の口から、そんな感情の抜け落ちた声が漏れる…こんな形で、その鼻血の理由を知りたくは無かったよ…


「あ…うん、いや…はい…」


…スイマセン。いつもの調子で謝罪するベポにゆっくりと視線を這わせれば、自分でも驚く程乾いた笑みが漏れた。


…もうあの島に戻る手段がねぇ。つまりは、少なくともあと半月は船内にあの猫が居座るって事だ…加えて半月もの間俺は…


「も、もしかしたらまだ島が見えるかも?!ちょっと俺甲板行っ「ベポー!!お前が最後エターナルポース持ってたらし、ってうわペンギン?!」…」


受け入れ難い現実に苦々しく口元を歪ませている俺に、ベポがアタフタと取り繕うかの様に明るい声を投げ掛けてきたかと思えば、一足遅れてアレの手掛かりを掴んだらしい馬鹿が必死の形相で駆けて来た。


「あのよあのな!!ベポが持ってたって情報がありましてな?!アレありゃ万事解決だろ?!なッ!!」


「ッ?!…俺が持っててすいません…」


俺を見るなり慌てふためき、不必要な説明を始める馬鹿。そしてその言葉に再び派手に影を落とすベポ…これ以上俺にため息をつかせないでくれ。


ベポにあの謝罪の理由を聞くなり、ヒィィッ!!と恐怖で全身を歪ませたシャチがその場に崩れ落ちたのを尻目に…俺は船長室へと向かうべく歩き出した。


まずは船長へ、奈落の底に沈みかけてるこの船の状況を報告しなくては…ミラーは喜ぶだろうが…だがあの部屋で世話をするのは船長が許さないだろう。また物置部屋を解禁するしかないのか…


そんな事をボーッと考えながら辿り着いた船長室の前には、何故か不機嫌なオーラを全開に放ち、ミラーの口をその両手で塞ぐ船長の姿が見え、俺は思わず眉を寄せる。一体…どうしたんだ?


訝しみつつも2人に歩み寄れば、ミラーの腕に収まっているあの猫が俺を見るなり、その瞳を細め無性にムカつく顔で睨みを効かせてきやがった。


どうやら俺はコイツに嫌われているらしい…元々好かれようなんざ思ってないがな。


「オイ少し黙ってろッ」


俺もあの猫を威嚇する様に視線を送りながら2人との距離を詰めれば、手元でその行為に抵抗するかの如くモゴモゴ唸っていたミラーに対し、船長が珍しく余裕の無い声を発した為…俺はその視線を正面へと移動させた。


「船長…一体どうしたんですか?」


足元へ乱雑に放られていたあのツナギを拾い上げながら、まるで苦虫を噛み潰した様な顔で自室の扉を睨み付ける男へと、そう声を掛ける。


ツナギに付いた僅かな汚れをポンポン払い落とす俺に、面倒な事になった…と、此方に視線を寄越す事無く言い放ち、更に険しくなった船長の表情に対し俺は苦笑する他無かった。


…ただでさえ眉間に深い皺を刻んだこの男の顔を、今からこれ以上に歪める事となる事実を伝えなければならないのか…数日は部屋から出てこなくなそうだな。


はぁ…本当に面倒だ。だいたいお前が来なければ、こんな事に頭を悩ませる必要も無かったんだよ。


相変わらず俺に喧嘩腰の視線を寄越すあの猫へと頭の中で悪態つきつつ、まずは船長が抱えてる問題からにするか…と、俺はため息混じりに船長へと言葉を掛けた。


「実はこっちも面倒な事になっている…これ以上に無いってぐらいにな」


もう何が起きても驚く事は無いですよ。そう冷めた笑みで話を促す俺に、船長は鼻で笑いながら、ならその扉を開けてみろよ。などと何やら意味深な視線を寄越してきたが、俺の心中は変わらず平静だ。


どうせ猫が行方を眩ませてる間に部屋へ侵入し散らかしていただの、その程度の問題だろう。もしくは仲間でも連れ込んでやがったのか?確かにそれも面倒だな。


あの馬鹿を小舟で猫と共に漂流させるか。運が良ければ再びあの島に辿り着けるだろう。そんな計画を思い描きながら、俺は言われた通りドアノブへと手を掛けた。


“ガチャッ”


「……ッ…!!」


『ふぉが?!んーッ!!』


“バタンッ!!”


「前言撤回だ船長」


更に激しく船長の手から逃れようと騒ぎだしたミラーを余所に、船長は舌打ちで俺の言葉に返事を寄越した。


出来ればここ数時間の出来事が、全て夢であってほしい…そう強く思うのは俺だけじゃない筈だ。



叶わぬ願い



(どういう事ですかッ…)

(知るかよ…俺に聞くな)

(ニャー)

((黙れ))

(んーッ!!んひー?!)

(すまないミラー今は少し大人しくし(船長船長ーッ!!兄貴から手紙か何か来てないッスかー?!))

((黙れシャチッ))
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