BOOK5
□No.29
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「いってぇ…」
振りきられたアイツの刀を跳び避けると同時に、奴の脳天目掛けてチョップをかましてやったのに…なんで俺の脳天が痛…あへ?
「…何処だ此処?」
痛む頭に手をやりながら、狭く薄暗い室内を見渡せば…徐々に慣れてきたこの目に映るのは、バケツのようなシルエットに…これはホースか?
……まさかの用具室?!ウゲェこれボロ雑巾じゃね?!くっせ!!うおモップが真っ二つ?!俺にチョップかましたのはお前…いや、俺がチョップかましたのがお前?
どうでも良いけどクセェよ此処!!
慌てて跳び起き外に出れば、何だか俺薄汚れてるような…
「っざけんなクソガルファー!!」
あの野郎絶対ぇブッ飛ばす!!俺の事尊敬してるなんざ嘘じゃねぇか!!
「何処行きやがったクソガルファー!!出てきやがれ!!続きすんぞッ」
今度はちゃんと牙持ってるからな?!テメェの首は俺が飛ばしてやるってんだ!!
何処だー!!って大声で叫んで通路をドカドカ進んでるにも関わらず、誰一人姿見せねぇってどゆ事?!舐めてんのか此処の船員は!!
プンプン怒りMAXな俺が、クソガルファーの長ぇその名前を叫びながら足を進めたのは、あの野郎の部屋…
「おッ、やっと第一船員発見!!」
ではなくて。
「あれ?ペンちゃんしか居ねぇの?」
腹が減っては虎が狩れぬ!!って勇み足で踏み込んだこのだだっ広い食堂に、ポツンと一人コーヒー片手に新聞を読むペンちゃんに、俺はドカドカと駆け寄った。
「その呼び名を定着させるな。ったく…もう起きたのか。テメェのお陰でこっちは寝不足だ」
俺を見るなり、ペンちゃんはスッゲェ棘のある視線を寄越して来やがったが…そんなの一々気にしてらんねぇよ。
にしても…この船極端に窓が少ねぇから気付かなかったが、もう日が射してんじゃねぇか。俺どれくらい寝てたんだ?…用具室で。ムッカー!!
「おいペン帽…俺の飯の在処と、クソガルファーの居場所を教える気はねぇかい?」
イライラが再発してきた俺は、ペンちゃんを見下ろす位置で、ドガッ!!とテーブルに腰を下ろしながら、怒りを纏う低い声でそう言い放つ。
でもぶっちゃけ、今はクソガルファーに怒り奮闘中な俺の脳内より、ここんとこ禄に飯食ってなかったこの腹の方がそろそろ限界。
“ギュルギュゥー…”
何か見定めるみてぇな無表情で俺を睨み付けていたペンちゃんも、俺の腹に住む魔物の雄叫びを聞くなり、呆れ気味にキッチンを指し示してきた。
「昨日の飯が丸々残ってる。好きなだけ食え」
話はそれからだ。なんてため息を吐くペンちゃんに後ろ手で礼を告げ、俺はキッチンへとダッシュ!!
そこに有った巨大な鍋の中には、タップリ溢れんばかりの具だくさんクリームシチューが!!寸胴の中にはシャキシャキ野菜もゴッソリ?!
これ全部昨日の残りかよ!!ってかコレ、絶対ぇ皆食ってねぇだろ?!
既に口の中がヨダレで大洪水の俺は、丁度良いサイズの鍋を引っ張り出してシチューをつぎ分け、それをチャッチャカ火に掛けた。
肉は全部攫っちまったけど…良いよな、おれ客だし。客って事にしとくし。
シチューが温まるまでは野菜をモシャモシャ…うんっめ!!
コトコト煮詰まったシチューを鍋ごと運び、先程と変わらぬ位置でコーヒーを飲むペンちゃんの前に腰を落ち着かせる。
「お前、どうやって此処まで辿り着いた」
俺がいただきますを言うより早くそんな声を寄越すペンちゃんは、確かめずとも機嫌が悪そうだ。でも少しは待てよ。
「いっただきまーす…うめぇー!!久しぶりのまとも飯はやっぱ生き返んなーッ」
ガブガブ勢い良くシチューを掻き込む俺に、目の前の男が何やら再度声を放ったようだが…俺は今それ所じゃねぇから。空気読めって。