BOOK5
□No.30
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鈍痛が止まない腰を撫でつけながら、ヨロヨロと向かったジギーの寝床にアイツは居なかった。
でもまぁ、腹が減ってはクソ兄貴とはやり合えぬ!!とも思って、食堂の扉を開けたんだけど…何故かソコには、死んだ様な顔のペンギンさんをガクガク揺さぶる元気なジギーの姿。
「ミラーッ、なんで俺あんな汚ねぇ用具室で寝てたんだよ?!お陰でメチャくっせぇ雑巾で鼻かんじまったじゃねーか!!」
なんて若干埃っぽいジギーが私に泣きついて来たから、とりあえず苦笑いで距離を取って、未だ遠い目をしているペンギンさんに朝の挨拶。
『ペンギンさん…無事終わりましたか?』
「…あぁ。“アレ”も相変わらずだ」
そして声を潜め尋ねた私の言葉に、盛大なため息と共にそんな返事をくれたペンギンさんは、相当疲れた一夜となったようだ…
「なぁミラー、お前本当にもう大丈夫なのか?…あぁ?!この手の包帯は何だ!!何でお前が怪我してる?!」
他は無事か?!なんて頭の天辺から爪先までを確認する様に、私の身体をクルクル回すジギー。
「ってかお前昨日、俺の事殴ったよな?!一体どんなトリック使いやがった!!」
終いには先程のペンギンさん同様ガクガク私の肩を揺さぶってきたコイツは、人に物を尋ねておきながら全然話をさせる状況にしてくれない。
「オラ正直に言えミラー!!どうせあの野郎に無理矢理ヤラしい事されて不機嫌になったんだろ!!」
あんな奴、兄ちゃんがケチョンケチョンにしてやらぁ!!なんて息巻く前に…その汚ねぇ手を今すぐ離しやがれクソ兄貴!!
「ジロンギー…そのままだとミラーが舌を噛むぞ」
俺はそれでも構わねぇがな。そう新聞に目を落とすペンギンさんの言葉に、やっとジギーの腕がピタッと止まった。
「ペンちゃん、つまりソレは…ミラーの中に居る悪魔は、まだ死んでねぇって事か?」
そんな意味不明な発言をするジギーに、一度住み着いた悪魔が死ぬなんて話、聞いた事ねぇよ。と、手元に視線をやったままのペンギンさんから興味無さ気に寄越されたその返事に、ジギーの首が傾ぐ。
はぁ…人の話を全く聞かないこのクソ兄貴に1から説明していかなきゃいけないのか…気が重い。
『ジギー?とりあえず、朝ご飯でも食べながらゆっくり話そう?ちゃんと全部説明するから』
ね?そう落ち着かせるようにジギーの手を取れば、俺はもう食ったから。お前の分だけマッハで準備しろよ。なんて告げられ私ポカーン…嘘でしょ?
「美味かったぞぉ、あのシチュー。あ、喉渇いたから何かトロピカルジュースでもちょうだーい」
イヤイヤふざけんな何でテメェが誰よりも早く勝手に飯食って優雅に飲み物要求してんだよ!!
『本っ当常識無いんだからアイツ…もぉーッ!!』
リンゴジュースは止めろよ〜。なんて図々しいジギーの注文を背中で受けながら厨房に入り、とりあえず鍋からシチューをつぎ分ける。
『…?……?!………ッ!!』
あのクソ野郎…肉が一個も入ってねぇじゃねーかよ!!マジいっぺん死ね!!