BOOK5
□No.36
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分かり易く存在を主張させ歩く俺の気配を、アイツが感じ取らねぇ筈も無い。
にも関わらず、奴は無駄に挑発的な口調で俺を出迎えた。
コイツが持つ、殺意の無い敵意…その内に潜むは罪悪感か、または嫌悪感か…
尚も挑戦的に威圧感を漂わせるこの男が、一体何処まで本気で向かって来ているのかまでは読めなかった。
だがやはり、俺の勘に狂いはねぇ。
猿芝居…その言葉に僅かながら反応を示した奴は一瞬その瞳を小さく揺らし、見極める様に固い表情を浮かべ俺を見やった。
その真っ直ぐな瞳は…やはりどこか、ミラーとの血の繋がりを思わせる。
いつまでも張り合ったって仕方ねぇな…
「テメェの下らねぇ考えなんざハナからバレバレなんだよ」
だが、乾いた笑いと共にこの口から吐き出したその言葉は、奴の口から再び俺の元へと舞い戻って来た。
面倒くせぇ…今更この状況で奴の言葉に見栄が含まれてるとは思わねぇさ。
ただこれ程までに“ミラーの言葉”が肯定されていくのが癇に障る。
それに…たかがそれぐらいの事で、奴が俺の弱味を握ったとでも息巻いてんなら…そりゃ見苦しい勘違いだ。
「………?」
トンッ…と扉に背を預けるとすぐ前にある壁、その膝辺りの位置に、蹴りを入れたような少し大きめの穴が空いていた。
ペンギンの野郎…充分キてんじゃねぇかよ。ったく、わざわざアイツを使いやがって…面倒くせぇ野郎だ。
「…あまり俺を舐めるな」
眉間に皺を刻んだまま、顔色崩さず強くそう言い放てば…奴は待ってましたと言わんばかりに顔をニヤリと歪ませた。
「ふ〜ん…俺にビクビク怯えて、サッサと追い出してぇと思ってた男の口から出た言葉とは思えねぇな」
…やはりな。こうも予想通りだと、焦りを通り越し笑いが出るな。
「ミラーを取られるーってアワアワだったんだろ?結構可愛いとこあんじゃんッ。そりゃ〜、牙をあそこまで不機嫌にしちまったとなりゃあ…俺に対して、罪悪感もあるわなぁ?」
挑発的に放たれる奴の言葉には、此方の神経を逆なでしてくるような…異常なまでに相手をムカつかせる何かがある。
「へへ…でもよ、邪魔者に自分から一発ブチ込むぐらいの事も出来ねぇとか、本当チョー可愛いー」
「だからペンギンを使って、遠回しに膳立てしてやったとでも言いてぇのか?フンッ…くだらねぇ」
「なんだバレてんのかよ。つまんねー」
自分の言葉が軽くあしらわれるも、気にした様子など見せない奴が、最も嫌う言葉は…既にこの内に秘めている。
それを告げた後見せるであろう、奴の情けねぇ顔を思い浮かべるだけで笑いが堪えきれない。
「気持ちわりぃな…笑うしかねぇってか?」
怪訝な顔を向けてくるコイツにその言葉を放つ際、一瞬脳裏をよぎったのは…柔らかく微笑んだミラーの顔だった。