BOOK5
□No.37
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俺はあれから、船長室へと来ていた。船長にはあぁ言われたが…このまま一人休む気にもなれなかったのだ。
主の居ない室内はどこか薄暗く、静寂が俺を包む。
「……」
ソファーの足元には、乾いた唾液の跡がクッキリと残されていた。その奥には奴の荷物。
未だ耳に残るあの薄ら笑い声を掻き消すように舌打ちを漏らし、その荷物を担ぎ上げ、俺は部屋を出た。
肩にのし掛かる奴の荷物より何倍も、この頭が重い。
幾ら考えようとも、奴があんな行動を取ったその理由が分からなかった。
ミラーを…牙をきちんと監視出来ていなかった事への当てつけかとも思ったが、船長の思惑有り気なあの様子を見る限り、そうとも言い切れない。
「…はぁ」
誰も居ない通路では、俺の歩調に合わせ背中で酒瓶がぶつかり合う音と、吐き飽きたため息のみが反響する。
目的の部屋まで辿り着いた頃には、すっかり辛気臭い空気が俺の周囲に充満していた。
だがそのドアノブに手を掛けた瞬間、微かに耳へと届いた、俺以外の者が放つ音…
『ま〜いごーの〜ま〜いごーの〜トーラ毛ッさーん〜あーなたの〜おーうちは〜…コッチでーすよ〜』
それは跳ねるような歌声。姿が見えずとも、その明るいであろう表情は容易く想像出来る。
ドアノブに掛けた手を離し、段々と近付く歌声に耳を傾けていると、奥の角から思い浮かべていた通りの顔がヒョコッと姿を現した。
『あッ、ペンギンさん!!』
そして俺に気付いたミラーが、眩しい程の笑顔と共にこちらへ駆けて来たが…何故ミラーがアレを抱いているんだ?
「何処かへ連れ出していたのか?」
ミラーの腕の中から威嚇するような唸り声を寄越すソイツに目をやる事無くそう尋ねれば、返ってきたのは不可解な答えだった。
「おかしいな…あの箱から出られたにしても、このドアノブまではコイツじゃ回せないだろう」
そう眉を寄せる俺の言葉にミラーも、あー確かにそうですね。なんて口にするが、実際の所大して興味も無いように見える。
『あれ?それってジギーの荷物ですか?』
そんなミラーは俺の肩に食い込まんばかりのソレを覗き込み、そう問い掛けるや否や…まさかアイツこの中に?!などと慌てだし、再度ドアノブへと伸ばした俺の腕をパシッと取った。
『やだやだ不味い!!ペンギンさんお願いだからこのままこの扉を封鎖しましょう!!』
絶対開けないで下さい!!そう声を潜めつつ激しく狼狽え焦る姿は、まるで怯えている様で…俺の頭に浮かんだのは大量の疑問符。
「…会いたく、ないのか?」
混乱した頭から絞り出したその言葉に、ミラーはこれでもかと言う程首を縦に振り続けた。
「…とりあえず入ろう。奴はまだ船長に捕まってる筈だ」
優しくミラーの手を振り解き、一足先に室内へと踏み込む。
頭の中がどうにかなりそうだ。