BOOK5
□No.38
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確認も無しに開けた扉の先には、訳の分からぬ小さな要塞が広がっていた。
…邪魔くせぇ。何で冷凍庫が入り口に来てんだよ。
「…?…あッ、キャプテン!!」
その奥で巨体を縮め丸まっていた、この部屋の住人…シーツの隙間から俺を盗み見ていたウチの白熊が、勢い良くそこから顔を出す。
「待ってねキャプテン!!今退かすから!!」
そしてそう言うや否や、凄まじいスピードで件の冷凍庫や、小さな書棚を追いやるコイツは…一体何してやがったんだ。
「キャプテン…アイツ、もう帰った?」
ガシャンドゴン!!と音を立て壁にぶつかっていくそれ等に呆れた視線を送っていると、俺の腕を弱々しく掴んだベポから、同じく弱々しい声が寄越された。
全くコイツも…少しは反撃してやれば良いものを。まぁ、躊躇う理由は俺と同じか。
「はぁ…アイツは暫く此処に置く」
そう言い放った瞬間、コイツの顔は見るに耐えない程のアホ面で固まり…強く握った俺の腕を一向に放さねぇ。
「ななななんでキャプテン?!アイツ昨日、凄い敵意丸出しだったでしょ?!俺剥がされる!!」
…何をだ。だいたいそんなデカいナリですがりついてくるな面倒くせぇ。
「別にもう、お前が心配するような状態じゃねぇから大丈夫だ」
そう纏わりつく腕を引き剥がしながら投げやりに言うが、でも何で?!などと、コイツも全く引こうとしない。
「はぁ…ベポ、アイツもミラーが心配だっただけだ。別にお前を襲いに来た訳じゃねぇ」
静かに諭すよう声を落とせば、潤んだつぶらな瞳が俺を捉えた。
「…もう不機嫌じゃない?」
…ガキかお前は。
「あぁ、大丈夫だ。なるべくお前に構うなとも言ってある」
ポン、と大きい額へと手をやれば、多少は不安が薄れたようだ。その顔を拭うコイツ仕様のツナギが、見る見る内に汚れていくのは目を瞑ろう。
「……何だよ」
俺が呆れ気味に軽くため息を零す中、いくらか落ち着いた様子のベポは、俺を不思議そうな顔でジッと見つめ離さない。
「キャプテンって…本当はアイツの事、嫌いじゃないの?」
そしていきなり寄越されたその突拍子も無い発言に眉を寄せていると、だって。と、ベポは困惑気味に声を上げた。
「キャプテン、楽しそう」
「ッ?!」
…楽しそう、か。
「フフッ、そうだな…アイツが居た方が面白ぇ事もある」
その言葉にベポは更に困惑してしまったようだが…お前は知らなくて良い。
「フッ、とにかくいつまでも籠もってねぇで、いい加減出てこい」
心配しなくても、アイツはお前に構ってる暇ねぇよ。そう軽く笑ってやればベポの口からは、そっかー…という安藤の息と共に、大きな欠伸が漏れた。
「…お前、寝てねぇのか?」
一気に重みを増したその瞼を擦りながら、先程とは違う涙を零すベポにそう尋ねる。すると当の本人は、だって寝たらどうなるか分かんないし…だとさ。
「はぁ…寝てこい」
安心しらら…と、最早呂律も上手く回らなくなったコイツにため息を落としつつ、その巨体をベッドへと促す。
「おやしゅみキャプテン〜」
そしてそんな呟きが漏れたかと思えば…次の瞬間には既に、大きな寝息が響きだしていた。
いざって時、ベポが居れば何かと都合が良いと思い来たが…まぁ、今日の所は寝かせてやるか。
ったくコイツも面倒くせぇな。
苦笑を漏らしつつ、ミラーとは違った温もりを持つベポの頬をひと撫でして、俺は扉へと踵を返した。