BOOK5
□No.40
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ソーッと扉を開けて通路を確認…よし、誰も居ない!!
スタタタターと甲板までダッシュ!!してる私を呼び止める声に足を止めれば、後方から爽やか笑顔のペンギンさん登場。
「甲板に行くのか?」
そう穏やかな声をくれるペンギンさんの手には、いつだか私が買ってきたあの小説が握られていた。
読書ですか?そう尋ねる私にペンギンさんはニコッ、と笑ってくれたのも一瞬で…次の瞬間には、ギョッ!!と…なんだ?
「…苦しいかもしれないが、ちゃんと上まで閉めような」
そう頬を引きつらせながら、私のツナギを首元までシッカリ締めてくれたペンギンさんにキョトンとしていたら、外は寒いぞ。なんて言われて納得。
『でもこのツナギ、暖かいですよねッ。私もこれからはコレ着てようかなー』
これならしっかりマーク付いてるし。そう鼻歌混じりに袖を摘んで自分の姿に見入ってる私に、それは駄目だ。なんて声が降ってきた。
え?と顔を上げた先には、相変わらず優しく微笑んだペンギンさんの顔。
ニコニコしたまま、何も言わずに歩き出したペンギンさんの背中を慌てて追う。
『駄目って、何でですか?!』
駆け足に、私よりも少し高い位置にある肩と並んで、その穏やかな顔を不満気に覗き込めば…んー?なんて目尻を垂らし、尚もペンギンさんは意味深に笑うだけで答えをくれない。
「ふふ、そう拗ねるな…ミラー、何故此処のクルーが、皆同じツナギを着ているか分かるか?」
プクゥっと頬を膨らませる私を見かねてか、存分にこのブスくれた顔を堪能したからか…やっとの事ペンギンさんは柔らかい声色でそう聞いてきた。
『んー……仲良し…だから?』
んな訳ないか。どこのチビッコ女子だよ。
『……降参です』
教えて下さい。そう眉をハの字にする私を見て軽く吹き出しつつ、ソッと私の頭へと伸びてきたペンギンさんの手は、相変わらず暖かい。
「皆同じ姿をしていたら、傍目に誰が誰か分からないだろ?」
…ん?どういう意味だ?
「俺等は、自分の名よりも船長を…“死の外科医”を示すこのマークを背負っていたいんだ」
ローを?…ローの名前を…?
『…わざと、懸賞金が付かないようにしてるって事ですか?』
そう問い掛ける私を見下ろすペンギンさんの目は、柔らかくもしっかり…絶対折れない、強い芯の有る光が宿っていた。
「普段は下らなすぎる馬鹿ばかりやってるが、いざとなれば癖の有る奴等ばかりだ。その気になりゃ、億の額も夢じゃない奴も中には居るだろう」
俺を含めな。そうふざけた様子でニヤリと笑うペンギンさんには、確実に2億近く付くと思う。確実に。
『そっか…だから皆、帽子とか被って顔を隠したりしてるんですね…』
そうだったんだ…
「まぁ、そうは言っても…船長が目立つにつれ、俺等にもマークがつき始めたのは否めないがな。仕方無い話だ」
面倒臭そうに苦笑を漏らすペンギンさんは、飽くまでも縁の下の力持ちを貫き通したいようだ。
でも…でもなんか、ちょっとモヤモヤ。