BOOK5

□No.42
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“ピピピピピッ”


けたたましく鳴り始めたタイマーに、ピタッと動きが止まるのはもう条件反射。


「ハイッ、しゅーりょー」


そう声が響いて、独りでにタイマーの音が止んだかと思ったら…いつの間にか甲板には、結構なギャラリーが出来てやがった。


暇だなコイツ等。あ、兄貴のお陰か。


集中を解いて、肩で息をしながら散らばったジャックナイフを拾いに行ってたら、あれれ〜?なんて何ともわざとらしい声がチラホラ。


「大分シャチの傷が少なくなってきてんじゃねーのー?」


ムカつくニヤニヤ顔を向けてくるクルーに、思わず俺は舌打ち。


今回受けた傷は全部で4つ。唯一ズキズキ痛みがある左手の甲も、別にそこまで深い訳じゃねぇ。


「ミラーちゃんもここ最近で、随分上手くかわすようになったね!!」


俺以上に肩を上下させてゼーハー言ってるミラーは、軽く手を上げてそんな声に答えてたけど、その顔はやっぱどこか誇らしげだ。


別に俺だって、手ぇ抜いてる訳じゃねんだけどな…


「んな顔するな。手加減無しのお前が悪い」


パコンと軽く頭を小突かれて顔を上げれば、そこにはペンギンのニヤニヤ顔が…なんだよお前まで。しかも俺が悪いって、意味分かんねぇし。


「ったく…お前が羨ましいよ」


ブスゥっと不貞腐れ気味にソッポを向く俺に、そう笑ってペンギンはミラーを呼んだ。


羨ましいって何がだよ。って言いかけた俺の言葉に被さって響いたのは、おつかれ〜い。なんて間延びした声。


火照っちゃったね。って笑いながらツナギのチャックに手を掛けるミラーを、何故かペンギンが慌てて止めてた。


「汗が引いた時、体は一気に冷える。確実に風邪を引く事になるから、ミラーはちゃんとキッチリ着てないと駄目だ」


…オカンみたい。


『ぶぅ、ハーイちゃんと着てまーす』


口を尖らせながら生返事をするミラーは、俺の身体をまじまじと360度様々な角度から確認。


「4ヶ所だよ4ヶ所!!おらココとココと、ココにあと…ココ!!」


少しムスッとしながら傷を見せる俺にミラーは…眉毛がハの字。なんで?


『首…少し切っちゃったね』


そう言って俺の首元に手を伸ばすミラーは、ごめんね。なんてショボン。なんだよ改まって…遠慮は無しって話だろ?


『私…私頑張るから!!』


ガバッと決意に満ちた顔を上げてそう言うミラーは、じゃあちょっと私、ジギーの所行ってくる!!って勢い良く去っちまった。


「なんだよアイツ…」


船内へと消えていくその背中を、訝しみながら見送る俺の頭を…また、パコーン!!と良い音立てて手元の本で叩くペンギン…痛ぇよ!!


「いい加減気付け」


いや何を?そんな馬鹿デケェため息吐かれたって、分かんねんだってば!!


「ったく…まぁ諦めろ。お前は一生ミラーを負かすこた出来ねぇよ」


「な?!」


そんなハッキリ言わなくったってよくね?!俺だって傷付くんだぞ!!


「フンッ!!分かんねぇぞ?!その内俺、メッタンメッタンになってるかもしんねーじゃん!!」


プリプリむくれっ面でプーイッとする俺を見て、ペンギンは呆れ気味に声を寄越した。


「お前はミラーを負かす事しか考えてねぇが…ミラーはお前を守る事しか考えてねぇ。そりゃ実戦以上の体裁きにもなるさ」


「……は?なにそれ」


どゆ事?そうポカン顔を向け直す俺の肩に、ポンと手を置くペンギンは、幸せ者だな。って笑い、また甲板の端へと戻って行く。


「………フンッ」


何だよそれ。実戦以上って…これから海楼石使うとなりゃ、実戦では自分が被害被るんだぞ?こんな所で実力以上出してんじゃねーよ。


「おーいシャチ〜。その手縛ったらポーカーしようぜー」


ホラよ。とクルーから投げ渡されたその包帯は、顔面を両手で覆い隠してる俺にはキャッチされないまま、コロコロ虚しく足元に転がってった。


「………ふふッ」


俺は今、このニヤケた口元を隠すのに忙しいから…だからお前はもう少し、そこで大人しく転がってろ!!ふへへ!!
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