BOOK5
□No.41
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“コンコン”
控えめに響いたノックの音で、俺はパチッと目が覚めた。
ふわぁ〜っとアクビを漏らして起き上がると、ベッドの下には、ベシャ〜とだらしなく丸まった分厚い布団…また寝てる途中で暑くなって、ペッと蹴落としちゃったみたい。
「入るぞ」
少しキツくなったオレンジのツナギからハミ出るモコモコの体毛を整えてたら、そんな声に次いで扉が開いた。
「…おはよー、ペンギン」
扉の隙間からヒョコッと顔を覗かせたペンギンに向かって、一応寝起きの挨拶…イヤイヤだけど。
「そんな顔をしないでくれ」
可笑しそうに苦笑いを向けるペンギンは、そろそろ頼むよ。なんて言ってポケットをゴソゴソ…
「ほらッ」
そして不貞腐れる俺に投げ渡されたのは、綺麗な赤い包みに入ったチョコレート。
「…キャプテンの話と違う」
ムスゥって眉を寄せながらも…俺はその包みをクルクル剥がして、小さなチョコレートをつまみ上げ、それをポイッと口に放り込んだ。
モグモグ…おいしい。
「馬鹿な真似しだしたら、すぐに俺が止めてやるから」
な?そう笑って俺に来るよう促すペンギンは、こうやって毎回違うお菓子を俺に持ってくる。
確かコレって“ワイロ”とか言うヤツだった気がするな…違ったっけ?
「はぁ…」
ポーイッと足元にあるゴミ箱へと投げ捨てた赤い包み紙は、その中で既に小山を作ってる、これまでに受け取った大量の“ワイロ”の包み紙に紛れて、分からなくなった。
「ほら行くぞ?」
…はぁ、本当気が重いよ。
「ねぇ、何でキャプテンはアイツを追い出さないの?」
2人並んで通路を進む中、俺が不満気に放ったその問い掛けに、ペンギンは部屋から持ってきてたらしい厚手の本で自分の肩をポンポン叩きながら俺を見上げる。
「船長の不安が消えたからだろ」
そして、ふふふ。なんて意味深に笑うペンギンは、後は自分が楽しむ為だな。って言って今度は呆れだした。
「どういう…あれ?」
その意味を尋ねかけた俺の足が、ある部屋の前で止まる。
「………行くぞ」
あれー?と首を傾げる俺の腕を、急かすように乱暴な仕草で引っ張るペンギンに、ねぇねぇ書物庫の中から…って出かけたその声は、俺の喉を逆流していった。
なんとなく…帽子の隙間からチラッと見えたペンギンの口元が、ギュッと力強く閉められてる気がして…声を掛けちゃいけない雰囲気だったから。
「サッサと終わらせよう。俺はこの後、甲板でゆっくり本を読みたい」
相変わらず俺の腕を強く握って、足早に通路を進むペンギンが、そう言って軽く振り返った時見えたのは、もういつも通りの優しい顔。
「う、うん…」
でも、何故だか俺の中にモヤモヤが残った。
「ヌガァァァァァ!!」
「「………」」
困惑気味に眉を寄せながらその背中を眺めていると、すぐ先にある食堂の中から、今までで一番酷い声が漏れ響いてきて…あーもう最悪。
「…今回は手強そうだな」
「………」
本当最悪。