BOOK2
□No.44
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ボンヤリとした意識の中…
「………?」
ふと目を開ければ、先程までこの腕に触れていた筈のミラーがソコに居ねぇ…それで俺は一気に目が覚めた。
シーツに手を滑らすと、僅かにその温もりだけは残っている。
「………はぁ」
アイツが居なくなるのも分からぬ程熟睡してたとはな…
フッと顔を弛め、俺がスッキリと機嫌の良いこの身体を起こしたその瞬間…
“バァーンッ!!”
勢い良く、派手な音を立て部屋の扉が開け放たれた。
『ハァ、ハァ、ハァ!!』
そこから現れたのは、何やら酷く慌てた様子のミラー…ノックぐらいしろ。
『たたたッ、タイヘン、大変!!』
肩で激しく息をしながら、ぺぺぺッペンギンさんが!!ペンギンさんが!!と、今にも泣き出しそうなコイツは中々本題に入らない。
『私本当に魔女なのかも!!ヤバいよどーしよ?!』
「………」
今、俺は初めて本気で海楼石が欲しいと思った。
『ねぇ魔女って治る?!』
コイツを殴りてぇ。
半泣き状態で俺に詰め寄るミラーから、その話の続きは聞けねぇだろうと思い、俺は直接ペンギンの元へと行く事にした。
「入るぞ」
そして目的の部屋へと足を踏み入れれば、ベッドに力無く横たわり、若干呼吸が荒いここの住人は見るからに体調が悪そうだ。
ったく…何だよ風邪か?
脈をとりながら黙々と診断を進める俺の隣で、同じような情けねぇ顔を浮かべるミラーとシャチが、何故だか必死に枕元でペンギンへと謝っている…うるせぇ。
「テメェ等いい加減出てけ」
「あう"?!け、蹴らないで船長!!」
『うわぁぁペンギンしゃーん!!』
“バタンッ!!”
騒ぐ2人を無理矢理部屋から追い出した所で、ペンギンが目を覚ました。
その身体から抜き取った温度計は、38度を指している…完璧な風邪だな。
「疲労が重なったんだろ。薬飲んで大人しく寝てろ」
淡々とそれだけ伝えれば、眼下のペンギンは、飲んだんだがな…などと納得いかない様子で小さくボヤいていた。
その言葉に眉をひそめるも、ベッド脇に置かれたデスクの上にある薬瓶のラベルを確認し、俺は深いため息を漏らした…こりゃ胃薬だアホ。
今しがた、この口から呆れ漏れた息に怪訝な視線を寄越すペンギンは、俺がこれ見よがしに突き付けた手元のラベルを一瞥し、やっと己の間違いに気が付いたのか…その目をギョッと大きく見開いて見せる。
「ふふ…どうやら、それなりに動揺していた様だ」
お前にしては珍しい凡ミスだな。そう呆れ気味に告げた俺へ、コイツはそう返してきた。
そんなにキツいなら点滴でもするか…そう腰を上げた所に、慎重にいくつもりなんですね。なんて笑う声…
「すぐに手を出すものかと思ってましたよ」
あぁ…アレを見たのか。ペンギンの言葉の意味を理解し、俺は再び腰を戻した。
「身体だけ奪っても意味がねぇ」
その台詞にコイツは、心底意外だ…とでも言いたげな視線を寄越す。
ったく…病人が余計な事考えてんじゃねぇ。
「とりあえず腹に何か入れろ。薬はそれからだ」
それだけ言い放ち、俺は振り返らぬまま部屋を出た。
そしてコックに病人食を作らせようとそのまま直接食堂へと行けば、先程追い出したミラーとシャチに、ベポを加えた3人が何やら厨房で騒いでる。
「風邪ならネギだろッ、ミラーこれも入れろ」
『ちょー、シャチ!!一本丸ごと入れんな!!細かく切るッ』
「風邪には海獣肉のスープだよッ」
「『黙れ!!』」
「すいません……」
…どうやらペンギンに何か作ってるらしい。ちゃんと食い物が出来上がるんだろうな…
「………」
俺がとりあえず黙ってその成り行きを見守っていると、結局野郎2人を使えないと判断したミラーが、独り黙々と鮭粥を作り出した。
『シャチ邪魔。そこに居られるとネギ切れない』
「俺が切っ『邪魔』…へい」
…何だ、案外さまになってんじゃねぇかよ。
━━━━ーーー
その後無事完成した鮭粥はシャチに持って行かせ、俺はやりきった顔を見せるミラーの腕を取る。
「何か作れ…腹減った」
その言葉に、へ?とアホ面晒して呆然と固まるコイツを、俺は再度厨房へと押しやった。
食べてみたい
(はいッ!!どーぞー)
(……草しかねぇ)
(ロー少しは野菜とんなきゃ!!ゴマ油で炒めてるから美味しいって)
(…ベポ)
(ア…アイアイ)
(ゴラァァァァァッ!!)