BOOK2
□No.58
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まだ陽も登りきってない明け方、船内に響き渡った怒号を目覚ましに俺は飛び起きた。
「ななな何だッ?!」
敵襲か?!って慌てて部屋を飛び出た俺に向かって、ミラーの兄ちゃんがスゲェ恐い顔で突っ込んで来て…
「どぉーゆーこったこの野郎ッ?!」
俺の胸ぐら掴んでガンガン激しく揺さぶってくるから、危うく俺は舌を噛みそうに。
他のクルーも部屋から飛び出すが、このある意味ただならぬ雰囲気に、そそくさと室内に戻って行った。薄情者共めッ!!
「おいキャスケット!!ペンギン帽野郎は何処居やがる?!」
ぬわわわわわ!!そんな揺さぶられちゃ答えらんねーよ!!本当舌噛むって!!とりあえずその手止めてーッ!!
心の中で叫ぶ俺。すると奥の部屋のドアが開き、不機嫌MAXなペンギンが、うるせぇ…って頭を掻きながら出てきた。救世主ッ!!
その瞬間、ミラーの兄ちゃんは俺を投げ捨て、ペンギンに向かって、俺の牙出せッ!!今すぐだ!!なんて詰め寄りだして…何なのもう…
「あんの野郎ッ、ミラーと一緒に寝てやがるんだよ!!今すぐあのヒョロ男をバラしてやる!!」
あぁー…船長何やってくれちゃってんのさぁ!!いくらコイツが嫌いだからって、そんな嫌がらせしなくても!!
俺が頭を抱えていると、ペンギンがため息混じりに、別に良いじゃねーか…なんて漏らして…え、良いの?!
「良くねぇよ!!あんな奴マイナス5000点だコノヤロー!!」
何か訳分かんねぇ事叫んで地団駄踏む目の前の男は、本当にあの極悪非道の人体解体師なのだろうか…ただのシスコンじゃねーか。
「お前に今牙を返すのは構わない。寝込みを襲って殺られる様な人じゃ無いからな」
心底面倒くさそうに話すペンギンが更に続ける。俺もうひと眠りしようかな…
「だが、ミラーもあの部屋で寝ているのは、それなりの理由があるからだろう。そんな所に突っ込んでも、後でお前がミラーに怒られるだけだぞ…」
まぁ、俺は止めねぇさ…それだけ言ってペンギンは一旦部屋に戻り、白銀に輝く牙を2つミラーの兄ちゃんへ投げ付けた。
「…………」
牙を受け取ったミラーの兄ちゃんは動きを止めたが…んん何かやっべぇオーラ出てね?えッ、肩ワナワナしてっけど…
「キャスケット野郎…」
「ひぃッ!!」
低い声で静かに名前を呼ばれ、思わず背筋が凍った俺…
「何でも良い…今すぐどっかの船見付けて来い…海軍だろうが海賊だろうが何でも良い……今すぐ見付けろ」
「はッ、はい!!」
ビシッと背筋を伸ばし見張り台へと走る俺の背中に、5分以内だ!!それ以上待てねぇ!!なんて言う叫び声が投げられた。
恐ぇ…恐すぎんだろアイツ!!船長やペンギンとはまた違う殺気が…早く見付けねぇと殺される!!
「ヤベェヤベェまじヤベ…おッ!!」
必死に双眼鏡を手に周囲を見渡せば、運良くすぐ水平線上に、大型のガレオン船が浮かび上がってきた。
「1時の方向に船があるッ」
甲板に座り込んで俯き牙を研ぎ合わせてる男にそう報告すれば、奴はそのままの体勢で、近付け。とだけ静かに放つ。
「へ…へ〜い」
重い…空気が…重すぎるッ!!
勝手に進路変えちまって良いのかよ…って少し心配になったけど、隣に立つペンギンが何も言わねぇから良いな!!
なんてペンギンのせいにして、俺は言われた通りにする事にした。