BOOK2
□No.62
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ミラーの兄ちゃんが、あの鼻に付く野郎の隙を作ってくれたお陰で、なんとか俺がトドメを刺す事が出来た。
「手加減って難しーぜ!!俺、こんなん傷出来たの久しぶりだわッ」
そう疲れた笑みを浮かべるミラーの兄ちゃんは、多分あの野郎レベルなら瞬殺なんだろうな…
ミラーも腕にデッケェ傷作ったけど、まさかあのゲッターに勝つとは…やっぱアイツ等スゲェや!!でもとりあえず、今は傷の手当てだッ!!
って、実際お互い満身創痍なミラーの兄ちゃんと並んで、身体ダリいー…なんて考えてる時だった。
だだっ広い丘に銃声が響いたと思ったら、俺達の後ろでブッ倒れるミラー。
「…え?」
嘘だろ?だってアイツの能力、無敵なんだぜ?弾撃ち込まれたぐれぇじゃ倒れねぇんだよ、アイツ。
「なんだよ…それ…」
じゃあ、何でアイツ起き上がらねぇんだ?
だんだん地面に血溜まりが広がってんのは…さっきミラーが殺った、イーグル野郎の血だろ?なぁ、そうだろ?
「退けキャスケット!!」
動けない俺を余所に、ミラーの兄ちゃんは直ぐさま傍に転がったミラーの黒い牙を拾い上げ、アイツを守る盾にするかの様に、ミラーの足下へ突き刺し周囲を警戒しだした。
「ふ…ふっざけんな!!何でだよ?!」
遅れて俺も、全身でそう叫びながらミラーに駆け寄る。
そして、うつ伏せで倒れてるミラーの身体を反転させ…僅かに上下するその胸を、俺はしっかりと確認出来た。
ダメだ、一旦頭を落ち着かせねぇと!!
「スナイパーが居やがる。しかも相当な腕だ…クソッ!!ミラーの様子は?!」
「息はあるッ!!だけど腹をやられたらしい…コイツ、血ぃ浴びすぎてどれがミラーの血か分かんねぇよ!!多分、相当な出血だ!!」
俺はここで初めて、ミラーの右手に嵌められた錠の存在に気が付いた。
「まさかッ?!海楼石か?!」
「だろうよ…何処のどいつか知らねぇが、相当遠くからソイツをミラーの腕に嵌める程の奴だ…ただ者じゃねぇぞ」
俺が今出来る、最低限の応急措置をしてると、周囲に目を配ってたミラーの兄ちゃんが、居やがった!!って勢い良く飛び出してった。
その身体が真っ直ぐ突っ込んで行った先は、数百メートル先で僅かに小さな影を作った岩場…
その岩場から撃ち込まれる弾をかすらせながら、ミラーの兄ちゃんはその手の白い牙で、僅かに銃身を出してたライフルを弾く。
その衝撃で2つに分かれ落ちる小さな銃口…
「ひょーッ、恐いねぇ〜君」
ライフルを捨て素早くミラーの兄ちゃんから距離をとって飛び出して来たのは、拍子抜けする程の優男だった。
あんな小さな物陰に身を隠しながらも、完璧に標的を狙い打ちしていた優男の腕に、俺の背筋から嫌な汗が伝う。
『うっ……シャチ…』
「ッ?!ミラー!!気が付いたか?!お前撃たれたんだよ!!馬鹿野郎がッ」
自力で起き上がったミラーは足下に突き刺さった大きな牙に背を預けて、今にも途切れそうな声で俺に状況を聞いてきた。
「今…お前の兄ちゃんがスナイパーの居場所炙り出した。お前は大人しくしてろ、良いな?!」
俺はミラーの返事を聞く前に走り出し、懐からぺティナイフを数本取り出して、残り数メートルに迫った優男に向かって、渾身の力でソレを投げ付けた。
“バンバンバンッ”
「喧嘩っ早いなぁも〜。首刈りは…まだ生きてるね。でも動けないかッ」
「なッ?!俺のナイフを、撃ち落とし…た?」
この距離でかよ…!!
「あぁ、君はハートの海賊団のクルーだね?船長さん、何処?」
相変わらずニコニコしながら、優男が質問を投げ掛けてくる。コイツ…一体何者なんだ?!
まさかナイフの影に、全く同じ軌道で2重に時間差をつけ…バレねぇように投げたアレまで弾かれるとは思ってなかった俺は、マジ困惑。
そんな俺の元へ、キャス!!と叫ぶ呼び声と共に、大きな背中が現れた。
「お前…足には自信あんだろ?」
「ッ!!」
ミラーの兄ちゃんが静かに投げ掛けて来たこの言葉の意味ぐらい、俺にだって分かる。