BOOK2

□No.63
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いつまでも止まぬ胸騒ぎ…こんな時の勘は、だいたい悪い方に当たりやがる。


中々戻らねぇアイツ等に痺れを切らし、自ら出向けば…白のツナギを赤黒く染め上げたシャチが、すげぇ剣幕で俺へとすがり付いてきた。


この時点で頭に警報が鳴り響く。アイツが危ねぇと。


崩れ落ちながら、俺の服を掴む手だけ強めるシャチの言葉を最後まで聞かず、気が付けば俺は道に続くシャチの血の跡を必死で追っていた…


辿り着いた広い丘には、あの野郎ともう一人…銃を手にした身軽な男の姿。


そしてアイツ等がやり合う手前で、その存在を主張するかの様にアイツの牙が黒く輝き…


「ッ?!ミラーッ!!」


警報が、一段と激しく脳天へと響く。


見間違いじゃねぇ…あの血溜まりは確実に“そこから流れ出ているもの”だ。


そこに座り込むアイツへと駆け寄るが、その顔は異常に青白く…一瞬にして止まった思考が、俺の動きを奪う。


…クソッ!!何故だ!!


「ッ!!」


これは…チッ!!海軍の野郎か!!


ミラーの手首にガッチリと嵌められた錠を見やり、舌打ちと共に、未だ派手に銃をブッ放っているあの男を睨み付けた。


「おいミラー!!」


『ヒュー…ヒュー…』


呼吸は、有る。


すぐさまミラーの身体の状況を確認するが、冷静を欠いた頭では…其れすら上手く出来なかった。


クソッ…死なせねぇよ。お前は俺が死なせねぇ!!


『…ロ…ォ…?』


「ッ?!ミラー!!分かるか?!」


薄く目を開いたミラーの瞳に俺が映る。


その瞬間、ミラーは嬉しそうに、ニコッと笑い…俺の頬へゆっくりと、その震える冷えた手を寄せてきた。


その手をどんなに力強く握り締めても、俺へと伝わるのはコイツの冷たさだけ…


『会いた…て…おも…た……ほん…と…あ……えた…』


それが最後の望みだった…そう言わんばかりの、コイツの最高の笑顔に、俺の頭は冷静さを取り戻す。


「お前は死なせねぇ!!必ず助ける!!」


ミラーの血だらけの手を両手で強く包み込み、応急措置の痕がある左腕と腹の傷を確認し、更に止血を施した。


出血が酷い。たが、コイツが海楼石の錠をしてるなら…鍵が必要だ。


「ミラー!!勝手に死ぬ事は許さねぇッ…もう少し踏ん張れ、良いな?!」


すぐ近くでブッ倒れていた、首の無い男から上着を剥ぎ取り、ミラーを包む様に被せ、ギリギリの意識を保つコイツにそう強く言い放つ。


するとコイツは、へへ…鬼…などと笑ってきやがった。


それを確認し、俺は未だあの野郎が手こずってる相手に向き直りながら能力を発動する。


今、俺の力で出せる最大のサークルを発生させ手にした刀を抜いた。


「あれ?君ハートの海賊団の船長じゃない?丁度良い所来たね!!」


黙れ…


その声が、その動きが、その面が、その存在が…その全ての要素が、俺の神経を逆撫でする。


「…シャンブルズ」


俺に狙いを定め男が撃ち込んで来た弾を、足下に転がってる小石を投げ、サッとソレ等を入れ替えた俺の瞳に宿るのは…久しく持ち合わせてなかった、純粋な殺意。


「うわッ、えぇ?!そんなの有りぃ?!」


自分へと戻ってきた弾をかすらせながら、男がムカつく笑顔を向けてきた。


「遅ぇよ外科医君!!俺に遠距離戦は向いてねぇんだクソ野郎!!」


あの野郎はそう叫びながら、ミラーの元へと駆ける。


「鍵は何処だ」


スキのねぇ動きで弾を補充するこの男は、この質問の答えを寄越す気など無いのだろう。


「イーグルの奴…どうせなら、君も手負いにした状態で逝ってくれりゃ良かったのになぁ」


クソッ時間がねぇ!!


「スキャン」


猶予なんざ無い。俺は目的のモノを奪う為、刀を水平に立て、そのまま平行に移動させた…


「ッ?!君…今、何したの?」


警戒心を露わにしたコイツから放たれる殺気が、いかにこの男が危険人物かを物語る。


だが…


「…鍵はもらった。お前にもう用は無い」


既に手遅れだ。


「メスッ」


一気に刀を突き男の心臓を抜き取った俺は、困惑する男に説明などせず、そのままこの手中でソレを握り潰した。


「ミラーッ…大丈夫だ、お前は俺の自慢の妹だろ?こんな所で…こんなことで死なねぇよッ」


刀を納め急いでミラーに駆け寄れば、先程よりも呼吸が浅くなってやがる…クソッ!!
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