BOOK2

□No.65
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ミラーの治療をしている間、俺はひたすら無心だった。


ただ黙々と、腹に残った弾を抜き、傷を塞ぎ、以前完成させたBBの複製薬を、輸血と共に溶かし入れ…


だから俺は、治療を終え、後はミラーが無事目を覚ますのを待つのみとなった時…手を洗う為向かった洗面台に取り付けられた鏡を確認し、驚愕した。


ハッ…こんな酷ぇ顔してたとはな…そう思わず漏れる自嘲。


「はぁ…」


俺はそのまま顔も洗い、ミラーの反対側で横たわるシャチの元へ…


「スピー…スピー…」


…ペンギンの奴か。流石アイツだな。完璧にやってくれた様だ…これならコイツは、明日にでも目を覚ますだろう。


ひとまず安堵の息を漏らし、その後俺は外の空気を吸う為甲板へと出向けば、そこでは珍しく、柵に腰掛け自棄気味に酒瓶を傾げるペンギンがいた。


その場へ静かに歩み寄り、アイツのすぐ横に背中を預ける。


「…ミラーは?」


「峠は越えた。あとはアイツ次第だ」


そうため息を付けば、奴は俺から視線を外さぬまま、今はミラーの側に居た方が良いんでは?そう軽く漏らし、また遠くを見詰め酒を煽りだした。


「外の空気が吸いたくてな…あぁ、シャチの野郎は明日にでもまた騒ぎ出すだろう。よくやったな」


「俺は…何も特別な事はしていない。最低限の事をやったまでだ」


自嘲するような薄笑いを浮かべるコイツが今知りてぇ事は分かってる。そして、コイツからはまだソレを聞き出す覚悟が無い事も…


「…安心しろ」


それだけ伝えるが、酒を飲み進めるばかりで奴は返事を寄越さない。


「……船長」


やっと俺に視線を向けたペンギンの目には、強い意志が宿り、真っ直ぐ揺らぐ事の無い決意が見えた。


「ミラーが目を覚ますまで、アイツの牙を…俺に預けてくれないか?」


頼み口調ではあるが、何処か有無を言わさぬ雰囲気を醸し出している…真っ直ぐに俺を見下ろす奴の目を見やる。


何か…吹っ切れた様だな…


「好きにしろよ。治療室に置いてある」


あぁ、正しくは、投げ捨ててある…だな。


「船長…俺はまだ、あの島で起きた事は聞かない」


キッパリとそう告げるペンギンは、その懐へと腕を突っ込む。


「誰が居て何があったかは、今はまだ良い…だから、これはアンタに返しておく」


「…?」


そう言って俺に差し出して来た手に握られていたのは、あの海楼石の錠の鍵だった。何故コイツがコレを?


怪訝な顔を向ける俺に気付いたのか、落ちてたんだと。そう奴が笑いながら投げ渡してきた鍵を、俺は宙でパシッと掴んだ。


「俺はミラーの意志を尊重させてやりたい。だがそれは“クルー”としての意見だ…“男”としての意見じゃない」


「ッ…」


そうでしょう?などと意味深な視線を寄越し、奴は一気に酒を飲み干した。ペンギンの野郎…言う様になったじゃねぇかよ。


「それと…今は出歩かない方が良い。そんな顔はクルーに見せるもんじゃないぞ」


じゃ、俺は寝るとしますよ。そう後ろ手をヒラヒラさせながら、奴は船内へと消えて行った。


その手が腫れ、薄ら血が滲んでいる事に気が付きため息を漏らす。アイツもアイツなりに、戦ってたんだな…


俺は未だ甲板の柵に背中を預け、その両肘をもたれかけさせ、星が輝く空を眺めていた。
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