BOOK2

□No.67
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治療室に投げ出されていたミラーの牙を預かってすぐ、解体師の無事を確認する事が出来た。


(サボるとすぐ、邪気が移っちまうんだよ)


まさかあの野郎…ビブルカードを仕込んでたとはな。黒の様子を見守るまでもないか…用意周到な奴だよ全く。


奴のメッセージは俺達の口からミラーに伝えるべきものでは無い…そう思い、元の場所にビブルカードを戻し、俺は再び牙と向き合った。


(親の形見なんだ)


(私はこれ以外、使う気無いしッ)


白と黒の牙、2人の両親、そして…あの時ミラーが口にした“あの名前”…


(テメェが私に教えたのは、シャラクの鍛練のサボり方だけだッ)


シャラク、その名は確か…


「………」


あの2人は、奴に戦闘を叩き込まれたのか?だとするならば、2人の両親はもしかして…


いや、これ以上俺はあの兄妹の問題に、無断で踏み入るべきでは無いのでは…


“バンッ!!”


俺が頭を悩ませている所に、背後の扉が乱暴に開いた。俺の部屋にノックもせず、無断で立ち入るのは、この船で1人だけだ。


「まだ起きませんか」


見ずとも伝わってくる不機嫌なオーラに苦笑しつつ、机に向かったままそう声をかける。


「起きた。アイツの牙を出せ」


その予想外な答えに、俺は勢い良く背後へと振り返ったが…眉間に深い皺を刻んだままの船長は、牙を奪うと同時に、さっさと部屋から出て行ってしまった。


…成る程。ミラーの第一声は、アイツの安否確認だったって訳か。


「ふふ…」


船長も気の毒だな。


俺が1人乾いた笑みを漏らしてる所に、今度はきちんとノック音が響いてきた。


それに答えると、扉の向こうには、すっかり元気になったシャチの姿が…


「ペンギン…ミラーの兄ちゃん、乗って無いんだってな…」


顔を伏せ拳を強く握り締めるシャチが弱々しくそう寄越す。あぁ…コイツにはまだ、解体師が無事だと伝えていなかったな。


俺がシャチへ向き直り、その事実を伝えようとした瞬間…


「…決めたよ!!俺、アイツの兄貴になるッ!!」


目の前の男から、衝撃的な言葉が発せられた。


「……は?」


訳が分からない。何故解体師が船に乗っていなかったら、お前がミラーの兄貴になるんだ。


「アイツ重度のブラコンじゃねーかッ!!兄貴が…もういないって分かったらアイツきっと…!!ペンギン、俺…アイツが好きなんだ!!」


「ッ?!」


俺の肩を強く掴み、力強く揺さぶってくるこの男の目は本気だ…本気で純粋に、馬鹿な目をしている。


だが…


「お前…本気でミラーに惚れてんのか?」


それならば、俺はコイツの肩を持つ事は…出来そうに無い。


相手はあの船長だ。結果は見えてる。


悪い事は言わない…今まで通りにミラーを見守っといてやれ。そう言おうと、シャチに視線を戻した時だった。
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