BOOK2
□No.4
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真正面から此方に向かって真っ直ぐ歩いて来る男から、私は焦燥を隠すようにソッと視線を逸らす。
まだ若干距離は有るものの、互いに向き合い同じ一本道を進んでる訳で…距離が縮まるスピードが早ぇよ!!
気付きませんよーに気付きませんよーに、気付きませんよーにッ!!
私は俯いて足早にこの場をやり過ごそうと、それしか頭に無かった。
2人の距離が縮まる。あと3歩…1歩…
『…………!!』
…っしゃー!!無事何事も無くすれ違「オィお前」ぬわぁぁぁぁッ!!ファーック!!
私の願い虚しく…地を這うような低い声に呼び止められた私に残された選択肢は、もう一つしかない。
『………』
無視だ無視ッ!!私は何も聞こえませんッ!!
部屋の扉まで競歩で進み、急いでドアノブに手を掛ける。一刻も早く、この空間から抜け出さなければ!!
“シュッ!!”
『ッ?!』
だけどそれと同時、私の目の前を凄い速さでナイフが横切った。
そのまますぐ横の壁に突き刺さったナイフに、私はゆっくりと…ブリキ人形みたいなぎこちない動きで、目を向ける。
…マジかよ。
「お前、首刈りだろ?」
スッゲー楽しそうに口元を歪ませ笑う男へと向き直る私の背中に伝う、嫌な汗。
『…いいえ?人違いだと思いますが?』
ニコッ?と笑い、ではごきげんよう〜。なんて部屋に避難しようとした瞬間、先程壁に刺さった筈のナイフが、勢い良く顔面目掛け飛んできて…
『ッ?!』
私は反射的に、後方へ避けてしまった。
「ハハハッ、首刈りじゃねぇにしても、今のを難なく避けるたぁ…普通の女じゃねぇだろ?」
『ッ…』
不味い…まずいマズい不味ーい!!私今牙ねぇし!!と、とりあえずダッシュで逃げる?!
ってか今ナイフが!!壁に刺さったナイフが勝手に!!なにコイツ能力者?!もうパニック!!
「面白ぇ…」
そう口元をグニャリと歪ませ、男はゆっくり私に近いてくる。
「お前と同じ面の手配書を見た気がするっていうのは、どうやら俺の気のせいらしいが…」
そう尚も可笑しそうに口角を上げる男は、私を試すように言葉を寄越す。
私は声を上げず、男をジッとこの目で捉え続けた。以前手配書で見た、その顔を…誰より凶悪面晒してた、その男を…
「“普通の女”のお前は、どうやら俺が誰だか分かってるらしいな」
手配書と変わらぬ妖しい口元を、手配書以上に歪ませ笑う…ユースタス“キャプテン”キッド。
『…なんの事だか、分かりませんが?』
私は無理矢理笑顔を張り付け、3億超えのスーパー問題児と向き合った。
コイツは今、ローとぶつけちゃいけない…確実に殺り合う事になっちゃう。
でもこのままじゃ私がヤバい…多分コイツの能力じゃあ、私は殺れ無いとは思うけど。
…いやそれでもヤバいって!!
「で、お前は誰なんだよ」
後ろは壁、正面にはスーパー問題児。私、絶体絶命。
こうなりゃ窓突き破って…駄目だ!!ここ4階ッ!!死ぬッ!!
『…私は人より、ちょっと反射神経が長けてる極々普通の旅する女です』
「…あ?」
あはー!!何故そんな幼稚な言い訳しか出来んのだ私!!うっわ?!目付き悪すぎだからコイツ!!
「…あんま舐めた事言ってると、今すぐ消すぞ」
…額に青筋浮いてるんですけど、この人。
ってか悪いの私かよ?元はと言えばアンタが昨日、隣でアンアンギシギシやってたせいで、今この状況になってんだろうが!!
『…私に、どうしろと?』
一般人だって言ってんだろうがクソヤロー。
その質問に、目の前のスーパー問題児は眉間に皺を刻んだまま低い声を寄越した。
「テメェが首刈りなら今此処で消す。違ぇってんならテメェは誰だ。答えを聞いて、消してやるよ」
『ちょッ!!どっちにしろ消すのかよ?!おかしくね?!選択肢がねぇッ!!』
「あぁ?」
……しまったぁぁぁぁ!!あまりの理不尽極まりない要求に、つい心の声がッ!!心の声が心に収まってねぇよ私!!
「ハッ!!テメェの答えを聞くまででもねぇ様だな…」
奴が黒く染まった指先を動かすと同時に、先程奴の手元に戻ったナイフが…
『ッ?!』
空中にフワフワフワ…浮いてますけど?!
いやいや、落ち着け私。奴は能力者…どんな能力か知らないけど、ナイフでの攻撃なら…いけるッ。
私も腹をくくり、なるべく深く傷がつく位置に身体を持っていけるよう身構える。
奴が妖しく口角を吊り上げた次の瞬間、あのナイフが勢い良く、私目掛けブッ飛んできた。