神様のメモ帳
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入部から一週間たって十二ヶ月に入っても、私たちは園芸部を続けていた。毎日放課後になると彩夏が私たちを部活に引っ張り出すからだ。
めんどくさいことは苦手なんだけどな。
園芸のことなんて全然知らないので、屋上のフェンスに寄りかかって、前と同じようにぼうっとしていることがほとんどだった。その日の晴れた空には切り絵みたいな雲が二、三切れ貼り付けられていて、じっと見ていると目がちくちくした。
思い浮かんだのはニート探偵事務所初日に会った彼のこと。ダメだ。なんで彼ばっかり・・・
「もう、二人とも手伝ってよ!」
剪定鋏を手に、彩夏が頬をふくらませる。
「・・・なにやればいいのかわかんない。水やりは終わっちゃったし」
「私は雑草抜いたよ」
「アンプル挿すだけだけだから。一つの株に一本ずつ」
彩夏はアンプル剤を手渡してくる。幕の内弁当についてる小さい醤油差しみたいなやつ。中には醤油の代わりに黄緑色の液体が入っている。
「これ、先っちょうまく切るの難しいんだよ。大きく切ると中身がすぐなくなっちゃうの。名人芸なのです」
自慢げに言いながら、彩夏は鋏でアンプルの先端を小さく切り落としている。
「ほら、あたし切る係りで名前ちゃんは挿す係り。藤島くんはあっちのプランター持ってきて。ちゃんと仕事して」
「仕事はきらいなんだ」
ぶつくさ文句を言いながら、彼は植木鉢を運んでいる。
「きらいじゃなくて、藤島くんたぶん、自分が働いているところをうまく想像できないんだよ」
「なんですかいきなり核心を突くようなことを」
「だって、あたしのお兄ちゃんが同じことを言ってたから。生活するために働かなきゃいけないのがよくわからないんだって。だから高校も中退しちゃったし仕事も探さないでふらふらしてるの」
「確かに一理あるかもね。そしたら『ラーメンはなまる』の裏手に集う人たちの一部になっちゃうんだろうね」
笑いながら言うと藤島くんの顔が少し青くなっていた。