Novel

□王様
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無事、進学できた。
春になったばかりの少し肌を差す空気。あともう少ししたら、桜の花が咲くだろう。
俺、沢田綱吉は高校生になりました。


「10代目!高校入学おめでとうございます!」

「ありがとう。獄寺君も、おめでとう」

「ありがとうございます!」


中学の時と変わらない笑顔がそこにある。変わらない日々が、続くんだと思った。


「これからも、平和な日々が続きますように」


と小さく祈る。
中学の頃から仲良くしてたグループや、そして今出会い、仲良くなった人達の賑わいがその声をかき消す。
よくある、平和な入学式だ。


「……?」


なんとなく、懐かしい気配を感じて振り向く。けれど見覚えのある姿はどこにもなくて。
「10代目?」と呼ぶ獄寺君の声にそれもすぐに忘れて。


「ツナ!獄寺!はよー!!」

「朝から元気だな…野球バカ」


大きく手を振る山本に振り返して、クラス表を仰いだ。
そして――

――雷淀 雪斗

そこに書かれていた名前に驚きを隠せなかった。

――どこ、どこにいるの

どうして、が頭を巡る。
2人が呼ぶ声も聞こえないくらい、その名前を見つめていた。
小さな頃、ずっと一緒にいてくれた人。いつもいない父に変わって、よく一緒に遊んでいた人。

そして突然、消えた人。


「10代目!どうしたんですか!?」
「ツナ、大丈夫か?」

「ぇ…?あ…ごめん。大丈夫だよ」


なんで、今更戻って来たの?俺をあの日、置いていったくせに。
ぐるぐると黒い心が生まれるけれど、頭を振ってそれを振り払う。
やっと帰って来てくれたんだ。ちゃんと、出迎えてあげなきゃ。
中学に上がったあの日、その人は突然消えた。理由は知らない。ただ何度も母に尋ね、彼女を困らせた。俺にとっては父の代わりのようで、兄のような存在だったから。
友達と遊ぶより、あの人と遊ぶことが楽しかったから、いつもまっすぐ帰ってた。


「……兄さん、」


呟きに返す声などなかった。
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