第1部 草木とひだまりのネイチャービレッジ

□第2話 お人形さんのお家
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草木の生い茂る大自然の中に二つの小さな影。
フィーネとコウの二人は楽しそうな表情を浮かべながら原っぱを駆け抜けていた。
これから未知の世界を冒険するフィーネはとても嬉しそう。
走り続けているとやがて森に辿り着いた。
フィーネは森の中を興味深そうに眺めていた。

「森の中、入ってみるか?」

そんな様子を見たコウがフィーネへと声を掛ける。

「いいの?」

その言葉を聞いたフィーネは目を輝かせてコウを見つめる。

「ああ、俺もよくここに遊びに来るからな。森のことはよく知ってるよ」
「行きたい!」

歓喜に声を張り上げる。
その様子を見たコウも嬉しそうだった。

「よし、じゃあ俺について来な!」
「やったー!」

森の中へと入っていくコウに続き、フィーネも中へと入る。
木々の隙間から日が差し込み、幻想的な魅力を引き出している。
そんな光景にフィーネは見とれていた。

「こっちに来いよ、いい場所があるぜ」

そう言い、フィーネに背を向け走り出す。
フィーネもそれに続いて走っていく。
木々を掻き分けて走ること数秒、その場所に辿り着いた。
そこは大きな広場だった。
真ん中に切り株があり、それを囲むように色とりどりの花が咲いていた。

「すごーい!」

その光景に驚きと歓喜の表情を浮かべるフィーネ。

「どうだ? 気に入ってくれたか?」
「うん! とっても綺麗!」

フィーネは嬉々としながら切り株へと走り出す。
そして切り株に腰掛け、花を眺めていた。
花に囲まれているフィーネはとても嬉しそう。
そんな様子をコウは満足げな表情で見ていた。
しばらく花を眺めていたフィーネだったが、突然遠くを見つめ出す。

「どうしたフィーネ?」

不思議そうに首を傾げるコウ。

「あそこ、何かいる」

そう言ってフィーネが指差した先をコウが振り向く。
その先には……確かに何かがいた。
それは人間のような形をしているが、明らかに小さい。
長い髪にひらひらのドレスを着た人形のようなもの。
それが、森の中を歩いていた。

「何だ、ありゃ?」
「すごい、お人形さんだ! お人形さんが歩いてる!」

その声に反応したかのように人形がこちらを向く。
そしてこちらに気付いた人形は慌てて森の中へと逃げていった。

「あ、逃げた! ねえコウ君、追い掛けてみよっか!」
「いいけど、あんまり森の奥に行くなよ?」
「分かってるよ、早く行こう! 見失っちゃう!」

フィーネは逃げていった人形の後を追いかける。
コウもそれに続いて走り出す。
すると、前方に人形の姿が見える。

「あっ、いた! 待ってよお人形さーん!」

尚も逃げていく人形とそれを追いかけるフィーネ。
その後ろをコウが付いていく形となっていた。
人形の逃げ足は意外と速く、フィーネの足ではとても追い付けそうになかった。
だがそれでも、見失わないように懸命に追い続ける。
しばらく走っていると、何やら建物のようなものが見えてきた。
レンガの塀に鉄の門、そしてその中には広い庭と、大きな屋敷があった。
白を基調としたお洒落で立派な屋敷だった。

「凄い、立派なお屋敷!」

フィーネが追いかけていた人形はレンガの下の小さな入口から中に入ってしまった。
人形の為に作られたようなその入口は人間が入るにはとても小さく、まだ子供のフィーネでさえ入るのは不可能だった。

「うーん逃げられちゃった……」

それから少し遅れてコウが到着する。

「全く、どこまで行くんだよフィーネ」
「コウ君、お人形さんこの中に入っちゃった」

コウは目の前の屋敷を眺めて感嘆の声を上げる。

「へえ、こんなところに屋敷があったのか」
「誰が住んでるのかな? お人形さんいっぱいいたりして!」

いかにも興味津々といった様子で屋敷を眺めるフィーネ。
するといきなり門の前へ行き、門を開こうとする。

「待てって! 勝手に入ったらまずいって!」

静止の言葉も聞かずに門を開けて中に入ってしまった。
門に鍵は掛かっていなかった。

「大丈夫だよ、ちょっと冒険するだけだから。ほら、コウ君も早くおいでよ!」
「仕方ないなー、どうなっても知らないぞ?」

こうしてフィーネとコウの二人は屋敷の中へと入ることにしたのだった。
広い庭を抜け、屋敷の入口に辿り着いた二人。
フィーネはドアの前のインターホンを押し、応答を待つ。
だが、返事は無かった。

「誰もいないのかな?」
「留守なんじゃないのか?」

フィーネはドアノブに手を掛け、中に入ろうとする。
コウが慌てて制止の声をかける。

「駄目だって! 勝手に入ったら!」
「鍵、開いてる……」

フィーネは聞く耳を持たなかった。
その様子を見てコウも遂に諦めてしまった。

「誰もいないね」

屋敷の中の何処を見渡しても人影一つ見当たらなかった。
フィーネはどんどん奥へと進んでいく。

「お人形さーん! 出ておいでー!」

しかし返事が返ってくることはなく、屋敷の中はただただ静かだった。

「なあフィーネ……そろそろ引き返そうぜ」
「えー! まだお人形さんに会ってないよ!」
「ここ人ん家だし、人形もいないみたいだし」
「でもさっきここに入ってくの見たもん!」

フィーネは一向に引き下がろうとしない。
コウが頭を抱えていたその時。

「いた!」

小さな人形を見つけ、追い始めるフィーネ。

「お、おい!」

少し遅れてコウもそれを追い掛ける。
人形を追って廊下を駆け巡る二人。
やはり人形の足は速く、とても追い付けそうにない。

「待ってよー! お人形さーん!」

しばらく追い掛けていると、またしても人形用の通路に逃げられてしまう。
二人の前には大きな扉があった。
恐らく人形もこの先だろう。
フィーネは迷わずその扉を開け、中へと入っていく。
コウもそれに続いて中に入る。
その部屋は今までとは違い、妙に薄暗かった。
部屋の中には沢山のおもちゃに、沢山のぬいぐるみや人形。
そして、部屋の隅には先ほどの動く人形。
怯えたようにうずくまるその姿は、まるで生きているようだった。

「貴方たちね、お人形さんを追い掛け回していたのは。駄目じゃない、こんなに怯えちゃって……可哀想に」

その声に反応して二人は声のした方を向く。
するとそこにいたのは……。
先ほどの人形よりも遥かに大きな、人間とそう変わらない大きさの人形がいた。
その背丈はフィーネよりも高かった。
紫色の長い髪に、ゴシック調の服を着た少女。
そして紫に輝く宝石のような瞳が特に印象的だった。

「私はアイリス……ここの人形たちのリーダーよ。貴方たちには、少しお仕置きが必要なようね……」

そう言いながらその人形はじりじりとにじり寄って来る。

「お、俺たちだって悪気が合ったわけじゃないんだ。謝るからさ、怒らないでくれよ!」
「すっごーい! 大きいお人形さんだー! とっても綺麗!」

こんな状況でも、フィーネは呑気だった。
生まれた時から強い力を持つフィーネに危機感など無いのだろう。

「おいで、人形たち!」

アイリスがそう言うと、彼女の周りに幾多もの人形が集まる。
その人形はみなフィーネたちに向けて弓を構えていた。

「大丈夫よ、ちょっと懲らしめるだけだから。多少強引な手を使っても、二度とこの屋敷に立ち入らないようにしてあげる」
「おい……これ、まずいんじゃないか?」

人形たちの余りの気迫にコウが後ずさる。
流石のフィーネも弓を向けられたことで少しは状況が分かったのか、真剣な表情に変わる。
人形たちは弓を構えながらアイリスの指示を待っている。
その表情は険しいものだった。
もう既に二人を侵入者だと認識してしまっているのだろう。

「どうしよう……こんなことになるなんて思わなかったんだよ」

大勢の人形たちを敵にしてしまったフィーネとコウ。
このピンチをどう切り抜けるのか――
二人の運命や如何に。

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