Main
□素直になれとは言うけれど
1ページ/1ページ
「ねぇ、沖田!」
何度名前を呼んだか。
止まれよ、速いよって何度いっても動きを変える気配はない。
私が何をしたっていうの?
いつもなら番傘で粛清してやろうという所だけれど、横顔が怖くて、何も言えない。
怖気づいているなんて、私に限って。
久しぶりの豪華な夕食に胸を躍らせていたのはついさっきまで。
席につくことなく、もうファミレスも見えなくなるくらいに遠くまで来てしまった。
どんな思惑?
動きがだんだんとゆっくりになって、とうとう立ち止まる。
私が息を整えていると、沖田は急にこちらを向いて、私の顔を覗き込んだ。
突然のその行動に驚きが隠せず、思わず顔を背ける。
目線だけは合わせようとして沖田のほうをもう一度見ようとする。
-ねぇ、何、その顔?
私、驚いただけだよ?
背けただけだよ?
-だから、そんな切なそうな顔しないで。
「ごめん、いきなり」
そう謝る沖田。なんてらしくないこいつなんだろう。初めて見た姿が多すぎて動揺している自分に気づく。
「今さら謝られたってしょうがないネ」
「まぁ、そりゃそうだな」
少しの沈黙。
どうしよう、こいつとこんな空気、初めてだからどうすればいいのか分からない。
「・・・ったく、いきなり何なんだヨ!今からは私の銀ちゃんの素敵なランチタイムだったのに」
瞬間、沖田の目つきが変わる。
沈黙を破るために、なんとなしに選んだ言葉は間違いだったのだろうか。
「お前こそ何なんだよ、口開けば旦那、旦那って・・・」
いっている意味が全く分からない。
いや、分からなかったんじゃない。
こいつの口からそんな言葉が出ることが意味分からないのだ。
それが、私に向けてなら尚更。
「沖田、お前・・・」
言おうか言わないか。
しばし躊躇した。
私は、一回この言葉をお前に向けて言ったことがあることを、ふと思い出したなんて。
あの時は、憎まれ口交じりで。
でも今日は、少しの期待を込めて。
期待できるなんて、私も大人になったもんだ。
「私のコト、好きアルか?」
「・・っはっ!?」
ちょっと待って、この反応は何?
違うの?違ってたの?
それとも、動揺しているのだろうか。
でも、明らかにいつもは見せない顔。
「お前、エスパー?」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声だなぁと自分でも感じた。
でも、そういう事?
「・・・神楽」
喧嘩して、いがみ合ってもうどれくらいたったのだろう。
そういえば、これまで一度も-
神楽、って呼ばれたことはなかった。
高鳴る鼓動。収まらない動機。
これは何?
いや、分かってる。
もう認められる?
認められる位、素直になれた?
「何アルか」
「抱きしめていい?」
「何でそうなる・・・」
言葉を言い終えるより、先に。
まわされた沖田の腕の感触。
まるで今までの分を一気に抱きしめるかのように、ぎゅうっとしてくる腕。
温かい。
「抱きしめていいなんて言ってないネ」
「でも拒否されてない」
拒否なんてする訳ないじゃない。
そんな事口が裂けてもいえないけれど。
「銀ちゃんたちのとこ、戻ろうヨ」
「嫌でィ」
「はァ?」
聞き分けのない男だ。
意味わかんない。いきなりこんなところ連れてきて、本当意味分かんない。
意味分かんないのに、この状況が嬉しいなんてこと、思ってない。
「戻ったら、またお前は・・・」
またその顔。
まるで、子ウサギに逃げられた狼のような。
でも、狼みたいな鋭い牙などどこにもなくて。
変わりに、何を見ているのか掴めない、でも大事な物を知っている、透き通った赤黒い瞳。
その瞳に、今私が映ってる。
「大丈夫アル、無駄な心配してんじゃねーヨ、クソサドが!」
そういいながら、腕を掴む。
さっきまでとは形勢逆転。
来た道を戻ろうと、今まで連れられて走ってきた道を歩く。
「おい、何すんでィ!」
「お前こそ何アルか、人の気持ちを確認しないで」
ここで言わなきゃ、もう次はいえない。
「勝手に話進めてお前はバカアルか、いやバカアル」
「おい、もうそれ以上俺を傷つけ・・・」
「何アルか、思えばサディストだって言ってるクセにほら!もう打たれ弱くいネ、死ねよクソサド!もう一回言うぞクソサド!」
「てめ・・・」
「だから、お前みたいな面倒くさい性質持ちのヤツに付き合えるのは私しかいないネ、変な心配しないでさっさと帰るヨロシ」
自分の赤くなっているであろう顔を見られないようにするかのように、早足で来た道を戻る。
一度振り向いてみると、そこには面食らったような顔で私を見ている、そいつ。
「え、チャイナ、それって・・・」
銀ちゃんに、何て説明しよう。
そんな事を考えながら並んで歩く、昼下がり。
( ツンデレだよなぁ、コイツ )
-------