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□イーグルス・ドリーム
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あの背中を見たのはいつぶりか。
らしくない着崩したシャツや腕に重たそうに着飾られたブレスレットがやけに鮮明に頭に残る。
でも、それよりも頭を巡るのは、隣にいた腰までありそうな茶髪のロングヘアの女性。
赤い顔でその背中にによがるその化粧で偽った顔を、壊してしまいたくなった。
( イーグルス・ドリーム )
「・・・・で、こんな状態なのか」
「・・・とっしぃい」
「ったく、何なんだよいきなり顔見せたと思ったらいきなりそんな強いやつ頼みやがって」
私が半分ぐらいまで飲んだカクテルを下げながらトッシーは言う。
前連絡をとったときに言っていたバーでトッシーがまだ働いていたことが幸いだった。
私がここを離れたのは2年ほど前だった。
高校を卒業したらパピーについていくと前から決めたときは、周りが大学受験だ就職だと焦っている時だった。
だから、自然と内定組でつるんでいた。
トッシーは短大を受けると言って塾に通っていたし、姉御はバイト先を見つけるので忙しそうだったし、必然的にコイツしか残っていなかったし。
だから、いつも同じように内定の決まっていた沖田と悪巧みをしていた。
銀ちゃんを困らせたり、トッシーのノートにラクガキしたり、そりゃあもう小学生並の。
そんな日々だって充実していた。
いや、そんな日々だったからあんなに笑えた、楽しかった。
だから、ケンカばっかだったけど笑ってた二人じゃなくなるのを恐れて、突き放した。
あの時、沖田の告白を受け取らなかったのは私。
進めないようにしてしまったのも私。
だから、傷つかなくても良かったはずなのに。
「とっしー」
とっしーは返事をしない。
でも、ちゃんと耳を傾けてくれているのは分かってる。
「私、間違ってたアルか?」
「そう思うのか?」
「それを聞いてるアル!」
「・・・合ってはないんじゃねーの」
「・・・」
黙るなよ、とうなだれた私の頭を撫でるトッシー。
触られた手が優しくて、つい涙が出そうになってしまう。
「ちょっと待っとけ」
そういうと、シェーカーを取り出して何かを作り始めた。
「何アルか、それ」
「待っとけ」
二回目の待てをくらわされたので、黙ってトッシーの手馴れた手つきを見ていた。
よし、と言ってグラスに注ぐと、私の前に差し出してくれた。
「飲んでいいアルか?」
「おう」
スミレの淡い色。
ほのかに香るレモンの香り。
白桃色をしたそれは、なんとなく幻想的だった。
「・・・きれい」
そう呟くと、トッシーがだろ、と笑った。
口の中にふわっとした風味が広がる。
そのほのかな甘さがとても優しくて、心地よかった。
「それ、イーグルス・ドリームってんだ」
へぇ、と笑った。
カクテルのことはよく分からない。
でも、今の私を分かってくれるトッシーが作ってくれたから美味しく感じる。
「何でこれを?」
「あー・・・それ、総悟が好きなやつだから」
総悟。
その言葉に反応して、思わずトッシーを見上げた。
「アイツもよく来るアルか?」
「よくってわけじゃねーけど、時々な」
ふと、さっきの情景を思い出した。
消えてくれないあの表情が頭に焼きつく。
「おい、チャイナ娘」
トッシーに呼ばれて顔あげるといきなりデコピンされた。
何アルか、と言うとトッシーが私と目線を合わせていった。
「お前が見たもんだけが真実とは限らねェ」
「・・・っでも」
私が見たのは確かに、「恋人」同士の顔だったから。
「好きなんだろ?」
-そうだよ。
好きだってことに、今更気づいた。
気づいてた。
ただの嫉妬だってことも分かってた。
信じたくない気持ちが裏返って現実と決め付けてた。
止まってるのは私のほう。
張り裂けそうなくらい辛かった。
でも、悲しいくらいに大好き。
「行ってこいよ」
「・・・っそれは」
「大丈夫」
ほら、と小さく笑ってドアのほうを指差した。
-あぁ。
私の知ってる、ただのサドの顔。
私の顔を見るとずいぶん驚いた顔をしていたが、私が涙目だったのを見たからか、少し戸惑っていた。
後ろでトッシーが良かったなといいながら煙草を取り出しているのが見えた。
( 偶然じゃないって、信じてる )
( 伝えるよ、言えなかった想いをぜんぶ )
fin
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カクテルっておしゃれですよね。
これは友達に人数あわせで付き合わされた合コンの帰りに女の子にしつこく付きまとわれていたのを偶然神楽たんに見られちゃったという話。
着飾っていたのは合コンだから無理やりという設定。
このあと、土方と三人でお酒を飲んで昔話をして、外に出て神楽たんが沖田にフッたこととを謝ってもう一度告白するみたいな感じ。
お互いギクシャクではないですが、ちょっと戸惑いながらという感じです。
ありがとうございました!