その他

□初顔合わせ - 連載中
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――松平、近藤と土方に会う――

 新しく警察組織に組み込むことになった浪士連中と面談を行うことになった。面倒くせェが、どこの馬の骨ともしれねェ連中に権力持たせる以上、最低限の見極めは必要だ。とはいえ全員となんざ話してられるかこの野郎と唸ったら、秘書が連中をまとめてる頭がいるってんであんなごろつき連中をこの短期間でまとめた馬鹿は一体どこのどいつだとそいつと話してみることにした。

 とりあえず間に合わせの屋敷に行くと、庭の方から威勢のいい声が聞こえてきた。どうやら比較的真面目な連中が鍛錬でもしてるらしい。その辺の木陰で大の字になってるヤクザもんよりゃましなのもいるかもしれェな。宿代わりに借り上げた屋敷の床の間を借りる。浪士連中は離れの方にいるらしい。そのまとめ役とかいうのを秘書に呼んでこさせた。

 来たのはやたらと図体のでかいゴリラみてェなごついのだった。いかにもおおざっぱで細かいことに向かなそうな面ァしてる。ついでに素直で騙しやすそうだった。操り人形にゃよさそうだが、使えんのかこいつ。
 蹴飛ばしてやりたくなったところで、縁側から直接上がりこんできやがったゴリラの後ろに細い影がくっついてるのに気がついた。そいつは縁側から上がらず、隅の方に行儀悪く立てた片膝を抱えて座り込みやがった。ゴリラの方は拙いながら一応作法らしきもんの形跡がある挨拶をするってな芸を見せたのに、おまけの方は挨拶どころかこっちを無視しっぱなしだ。それをゴリラも当然のような顔で許してやがる。
 なんだこいつらァ。ちょいとばかり楽しい気がする。まァ、その辺の御家人や旗本のぼんくらどもよりは手ごたえのありそうな連中じゃあねェか。アァ?

 ゴリラは近藤と名乗った。近藤がまとめ役になってるのは、こいつが道場主で、道場の連中引き連れてやってきたもんで、他のごろどもの中じゃあ最大派閥みたいになってるせいらしい。またこいつらが派閥つって肩で風切るようなことをせず、頼られりゃァ他の連中にも手ェ貸してやったりなんだかんだと面倒みちまったせいで派閥が膨れ上がっていったようだ。
 なるほど、お人よしで面倒見のいい兄貴分ってとこか。話してみりゃァ、第一印象ほど操りやすくはねェこともわかってきた。こいつは確かに素直だし、馬鹿で自分でも自分が馬鹿なことを知ってるから人を頼ることも躊躇しねェ。しかし一本筋が通っている上、騙して操ろうって奴には面倒くせェことに、勘だきゃァいいから簡単には曲がらねェ。素直だが頑固だ。いいねェいいねェ。

 それにしてもあれやこれや話しながら、ちょいと気になってたのがあの縁側の男。男にしちゃ珍しいくらい艶やかな黒髪を頭の上で結んでいる。ゴリラに比べりゃ線も細いし骨もまだ華奢で、後姿だけだがまだ成長期が終わってねェんじゃねェかと思う。ゴリラ自身、まだ二十歳すぎってとこだしな。見えねェが。

 気になって、一通り話し終わってからありゃァなんだとゴリラに水を向けると、あれはゴリラんとこの門弟らしい。偉い人と話をするってんで、ゴリラの馬鹿がわかんねェことでももう一つ頭がありゃァなんとかなんじゃねェかとついてきてもらったんだそうだ。あいつも馬鹿だが頭が良いからと役に立つんだか立たねえんだかわからんことを言う。ようするに本当にただのおまけってことかとそいつの面ァ見てやりに近寄ったら、途端に縁側から飛びのいて睨みつけてきやがった。猫見みてェな奴だな。とりあえず、ようやく正面から見えた面を鑑賞するに、ほう、と後ろで秘書が感嘆するのが聴こえた。
 年のころは十代の終わり。猫みたいに釣り上がった険呑な目をしちゃァいるが、白皙の面は人形師が丹念に掘り上げたようなウソ臭いほどきれェな面ァしてやがる。芳町でも充分に客が取れるんじゃねェか。下手したら、蓮っ葉で客に媚び売ることばかり得意な陰間連中より、清冽な剣士の風貌のこの男の方がはるかにモテるだろう。トシ、と近藤が呼ぶと、ちょっとの間、近藤を見て、それから俺を睨みつけて距離を保ったままそろりそろりと近藤の方に回り込んだ。一見野良猫みてェだが、一応飼い主はいいるらしい。

 近藤から土方と紹介された男は、近藤の斜め後ろで再び行儀悪く膝を崩して座り込んでいる。きれいに端坐する近藤とは対照的だ。なるほど、おおざっぱであけっぴろげな近藤に、警戒心が強い土方。割れ鍋に綴じ蓋ってとこか。面白い。こいつらがどんな風に成長していくのか見守るのも悪くない。
 久しぶりに気に入りの玩具を見つけた子供の気分を味わった。



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