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□拍手:また子日記
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――1――
 晋助さまが猫を拾った。携帯で迎えに来いと呼び出された万斉先輩は船で猫を飼う気かと呆れてたけど、猫一匹くらいいいじゃないかと思う。昔の海を行く船は鼠退治に猫を乗せてたというし、案外働き者かもしれない。
 晋助さまが拾った猫は先輩の肩に担がれてやってきた。両手を手錠で固定され、口には白い布が噛まされている。眠ってんのか伏せられた顔は見えなかったけど、ずいぶんと図体のでかい猫だ。焦ってキャットフードを飼わなくて良かった。まあ、買ってあっても晋助さまは笑ってくださったと思うけど。

「先輩、猫ってこれっスか?」
「晋助の気まぐれにはいい加減して欲しいでござる。猫は猫でも、特上の爪をもった猫でござるよ」

 晋助さまの部屋に下ろして仰向けにされた猫は雄のわりにきれいな顔をしていた。

「美人っスね」
「ついでに気性は最高級のアビシニアン並でござる。下手に突くと黒豹に変わる故、躾は晋助に任せて手を出さないでおくのが賢明でござろう」
「それって、めっちゃ晋助さまの好みっスね」

 万斉は深々と嘆息して、「だからって相手を選んで欲しいでござる」と泣きそうな顔をした。

「なんかまずい素性なんスか?」
「また子は新聞やTVは見ないでござるか」
「TVは見るっスよ!今は渡る世間が面白いっス!」
「ドラマばかりでなくニュースを見るべきでござる。この猫についてはワイドショーでも散々顔が流れてる筈でござるが」
「有名人っスか?芸能人!?」

 ちょっと声が弾んでしまったけど、仕方がないだろう。芸能人相手なら誰だってこうなる。確かに晋助さまの猫は芸能人といわれて納得の顔をしているし。
 でも万斉は首を振った。

「有名人には違いないが、どちらかというと我々に近い関係でござるな。この御人は――真選組副長土方十四郎殿でござる」
「ふうん、真選組ふくちょ―――――――って、あたしたちの敵じゃないっスかあ!!」
「やっとわかったでござるか。まったく、晋助には困ったものでござる」

 真選組といえば幕府の狗。攘夷浪士たちの憎むべき敵。鬼兵隊にとっては宿敵とも言える相手だ。しかもその副長といえば、確か真選組があれだけ功績を上げてるのは鬼の副長が仕切ってるからだとか何とか。ワイドショーも新聞もみないあたしだってそのくらいは知っている、っていうくらいの敵だ。

「殺した方がいいんじゃないっスか」
「拙者もそう思うのだが、肝心の晋助がうんと言わんのでござる。それどころか飼う気満々でござるよ。今だってここに居らんのは、この猫のために特製の檻を作るべく工作部に自ら出向いているせいなのだ」

 晋助さまの我がままは鬼兵隊の一員にとっては神様の気まぐれな悪戯みたいなものだから、誰も逆らう奴なんていない。直接出向かれた晋助さまの要求を工作部は熱心に叶えようと頑張るだろう。そいつらがちょっと羨ましいとか思ってしまったのは自分が情けなくなるので無かったことにしておこうと思う。

「晋助さまがその気ってことは、あたしたちに出来ることはないっスね」
「腕は立つようだが、あっさり捕まってるあたり晋助の身に危険はなさそうでござる。とはいえ晋助以外のものが誑し込まれて逃げられては意味がないでござる。晋助の部屋には我々以外近づかないように徹底するつもり故、また子にも協力してもらうでござるよ」
「了解っス!」

 洗濯物の回収とか食事の配膳とか、下っ端の仕事も回ってくるということだろうけど、晋助さまのお顔を拝見できる可能性があるなら喜んで引き受けるつもりだ。ていうかこれチャンス!?
 晋助さま、また子頑張るっス!


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