その他

□his presents
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※lament設定でhis prideの続きみたいな




「総悟ー、今日は大人になった祝いに吉原に連れてってやる」

 上機嫌の近藤に連れられて沖田は初めて吉原の座敷に上がった。今日の座敷には近藤と副長である伊東の馴染みの花魁二人がくるらしい。そうは見えなくてもそれなりに二人を尊敬している沖田としては、彼らの馴染みがどんなものなのか興味深い。また吉原花魁と言えば男の憧れの花でもある。女への興味そのものより、好奇心で沖田は座敷に座った。
 男衆が呼びに行ってまもなく、座敷の襖がするすると開く。

「…近藤はん、ようきておくれやした」

 にこりと微笑んだ花魁は可愛らしい様子だった。どうやらこれが近藤の馴染みらしい、近藤らしい趣味だ。最近はかぶき町のキャバクラに行くことが多いらしい近藤だったが、にへら、と相好を崩した。

「あんまりお久しぶりなんでお見限りかと思うておりましたえ?」

 拗ねたように睨む顔まで可愛らしい。女ゴリラと異名を取る志村妙よりよほどこっちの方がいいじゃないかと内心で思う。慌てて言い訳をしているゴリラに視線で助けを求められて、沖田は天井に溜息を吐いて口を開いた。

「局長ともなると色々しなきゃいけねェ仕事があるんでさァ。あんまこの人を苛めないでやって下せェ」
(キャバクラとかキャバクラとかキャバクラとかねィ)

 そこでようやく花魁の視界に沖田が入ったらしい。

「…あら、こちらは可愛らしい。弟さんかしら?」

 きれいに微笑んだ台詞は明らかにお世辞だったが、近藤は喜んで「そんなもんです!」と沖田の背を笑って叩いた。

(見えねェだろうがよ。このゴリラと俺がどうやったら血が繋がってるように見えるんでィ)

 近藤があまりにおめでたいので実際に口にしてやろうかと思った沖田の悪態だったが、口にすることはなかった。膝を上げて座敷に入った花魁の後ろからもう一人、現れたせいだ。

(白い――月だ)

 どうしてそんな連想をしたのかわからない。だが、沖田にはその花魁の表の白さが目に輝くように見えた。

「おお、よくきてくれたなあ土方花魁。今日は伊東先生はこれなくて申し訳ない!俺と総悟と二人抜けるとあっては先生まで屯所を空けるわけにはいかなかったんだ」
「文を頂きましたので、承知しております。近藤様にもお元気そうで何よりです」
「うん。俺たちは元気だよ。それで、コイツが総悟だ」

 近藤が沖田の方に手を差した。土方と呼ばれた花魁が沖田の方に顔を向ける。白い顔の中、ぽかりと開いた薄青い瞳が沖田を見て、長い睫毛が瞬いた。昔幼いころ、孵化したての蝶が飛び立つのを見守ったのを思い出す。急に咽喉が渇いて茶が飲みたいと思ったが、肩の筋肉が緊張して腕が動かなかった。

「沖田さん。伊東さんからお噂はかねがね伺っております」
「…へェ、どんな噂だか。あの先生の事だからさぞかし意地の悪いことを言ってたんじゃありやせんかィ」
「近藤さんがとても頼りにしている一番隊長さんで、とても剣術が達者でいらっしゃると」
「ええ、そうなんですよ。俺はこいつをとっても頼りにしてるんです。もちろん先生もですがね!」

 近藤が自分の事を褒められたかのように嬉しそうに笑って、沖田はほっと息を吐いた。

「俺ァ伊東さんの真面目な顔しか知らねェんで、アンタといる時あのお人がどんな顔をしてんのか興味ありやすねェ」
「はは、伊東さんだって男だからなあ。そりゃあ…ムフフ」
「近藤さん、間違ってもアンタの想像とは違うと思いやすぜィ」

 というより、そうであって欲しい。この花魁と伊東がどんな時間を過ごして来たか知らないが、近藤の想像みたいに崩れてデレデレになる伊東とかはさすがに嫌過ぎる。そんな副長、想像したくもない。

「わかんねーぞお?先生だって男だ。美人を前にしたらそりゃもう」
「あらあ、わっちは美人じゃないとでもいうんでありんすか?」

 近藤さんの馴染みの方が無視するな、というように口を挟んできた。扇で口元を隠して笑んだ顔は丸い小作りでやはりそうしていても妖艶というより可愛らしい。対して土方の方は近藤の想像力爆発した台詞にフ、と目元を和らげただけで色気が零れた。

「え、あ、そういうことじゃ。二人とも美人ですよ!というか吉乃は美人というよりかわいいけどね!」
「うふふ、嬉しい」

 紅い唇の端が上がって、近藤の声が上ずる。それを沖田は土方の顔だけを見てぼんやりと聞き流した。
 吉乃と言うらしい近藤の馴染みの花魁は、沖田の想像から外れない女らしく計算高い遊女だった。きっと人気があって近藤よりいい旦那もたくさん付いているんだろう。この座敷に来たのも真選組の局長という看板のために違いない。女なんてそんなものだとある意味リアリストな沖田は吉乃に対する興味を失った。
 だがそれと反比例するように土方への興味が募る。礼儀正しいが派手に媚を売るでもない、色気はあるが良くできた人形みたいで女らしさに欠ける。近藤が吉乃と話し始めても口を挟むでもなく、沖田に愛想笑いするでもなく、静かに控えている。花魁らしい花魁な吉乃と比べると、それでいいのかと首をかしげたくなるが、それでもこの土方は花魁なのだ。
 じっと凝視している沖田に気付かない筈もないのに、土方は無反応だった。

(――花魁ったって客商売だろうが。ちったァ愛想の一つも振り撒けねェのかよ)

 沖田は立ち上がると土方の前に移動して胡坐をかいた。土方の顔が上がって薄青い目が正面の沖田にあてられた。この距離に来て、土方の目の色が薄く墨を流したような色をしているのに気づいた。

「アンタァ、俺たちをもてなしにここにいるんだろィ。仕事して下せェよ」

 杯を取って催促する。土方はそんな沖田にゆるりと笑んだ。笑顔というには弱いが、人形が人形でなく生きていたと気付かされるような鮮やかさがある。

「では一献。二十歳のお誕生日おめでとうございます、沖田さん」
「どうも」

 なみなみと注がれた酒に沖田は笑う。酒は二十歳どころかガキの頃から飲んでいる。ぐい、と一気に飲み干してまた杯を差し出すと、土方は呆れた顔をして最前と同じだけ注いできた。その顔は先ほどからさして変わっていないのに何故か沖田には『さっさと潰れちまえクソガキ』と言われている気がして、沖田は笑いながら酒を飲み干した。




※もっと沖+土らしくツンケンするつもりだったのに、ミツバさんや近藤さんと絡まないせいか沖田君は普通に気に入ったみたいです。

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