ラクヨウのカケラ(text)
□多分それが幸せってやつ
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あたしは頭が悪いらしい。
親にもそう言われて育ったし、よくわからないことはたくさんある。
よくわからないから学校にも行かずに、仕事につくこともできずに、よくわからないまま海賊になった。
海賊になってからも、なんだかんだでしょっちゅうバカだと言われている。
だからきっと、あたしは本当にバカなんだと思う。
「花火だー!!」
立ち寄った島で、花火大会があるという情報を持ち帰ったのは誰だったっけ。忘れてしまったけれど、ともかくその情報は浮かれた空気と一緒にモビー内の隅々にまで伝わった。
近くで見ると言って出かけた人もいるし、あたし達みたいに甲板に酒を持ち出して騒いでいる人もいる。
「はーなーびーっ」
「うおーっ」
甲板から身を乗り出してもう一回叫んだら、隣でラクヨウもおんなじように騒いだ。
同時にひゅるると音がして、どんと大きく空に花が咲く。
「きゃぁーっ!」
「おぉーっ!」
「そこ2人うるせぇぞーっ」
ぎゃははと笑う声が背中から聞こえて、蒸し暑い空気も気にならないぐらいただ楽しい。
「ねぇラクヨウ知ってる?花火ってねぇ、夏のフーブツシなんだよ」
「へぇ、そうなのか。フーブツシってなんだ?」
「んー、知らない!」
2人でちょっと首を傾げて、それからえへへと笑いあった。
なんつー会話だよい、なんて呆れた声が聞こえたけれど、いつものことだから別に気にしなくて大丈夫。
ドーンとまた音が響いてひときわ大きな花火があがった。
「フーブツシーっ!」
パラパラと落ちる光を眺めて大きな声をあげたら、ラクヨウも隣でおんなじように叫ぶ。
バカだと笑う声が甲板に響いて、あたしもラクヨウも一緒に笑った。
こうやって騒いで笑う。それがなんか嬉しくて、あたし、バカでもいいんじゃないかって思うんだ。
【多分それが幸せってやつ】