ラクヨウのカケラ(text)
□繋がる、イマ
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カラーン
ドアに付いていたベルの心地よい音をわざと出した。
服屋なのに、中に入れば和なのか洋なのか分からないが花の香りがする。
原因はイゾウがチョイスした香の匂いなのだけれど。
「いらっしゃい!」
ドレッド頭で髭を八の字に生やした男−ラクヨウ、が迎えてくれた。
「なんだ、お前か。まァ、待ってな!」
そう言うとカーテンで仕切ってあるバーへと続く店へと消えた。
「ほらよ!」
ミルクを目の前に差し出され、ゆっくりと飲む。
カラカラーン
暫くすると、来客を告げるベルの大きな音がし、振り返れば黒髪で雀斑顔の男−エースが入ってきた。
「よっ!…確か、今日ってオヤジとマルコと…サッチが来る日だったよな!!」
ミルクを飲む此方に気付き、頭を撫でられた。
そしてエースはラクヨウに今日の客入りを確認しながらカーテンの奥に消えていった。
***
気付くと先程まで燦々と降り注いでいた太陽は西の空で食いしばるかのように僅かな陽射しを放出している。
ふとカウンター席の定位置から顔を上げると既にリーゼント頭−サッチと白い立派な髭男−オヤジが来ていた。
「それでよ、今日の撮影の会場が"秋の山登りデート"ってテーマだったのによ…会場がドーマの持ち山で…」
「ドーマか…懐かしいな。あのハナッタレは元気だったか?」
サッチは副業であるモデルの話をしながら、オヤジの手酌をイイ頃合いを見てやっている。
それを上機嫌に受けてチビチビと酒を呷るオヤジ。
「ドーマの放し飼いしてる猿が居なきゃ久し振りに会いてェな!」
並々と盛られた肉の大皿をサッチとオヤジの間に置いて、菜箸で摘み始めるエース。
「自分で客に提供した料理を食べるとは躾のなってねェ店だよぃ」
頭頂部だけに髪を残す通称 南国ヘアーの男−マルコが入店のベルと共に呟き、やれやれと肩を竦めてオヤジの空いてる方の隣へと座る。
「ま、躾くらい少し出来てなくても店の料理を作ってくれるんだから許してやれよ」
おしぼりとビールジョッキをラクヨウが豪快に笑いながら出している。
「それで今日も居るのかい?
そのチェーンハンマーとやらに憑いてる"カミサマ"ってのがよ───」
マルコの一言で、今まで無かったモノとして扱われていた此方へと5対の目が向けられた。
「「「「あァ、いるぜ?」」」」
その答えに微笑んでおいた。
【繋がる、イマ】