ノートの端には…

□置いてけぼり
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第一話〜お母さんに似てる人〜


みんな僕を置いていく。いつも一人ぼっちで窓の外を眺めている。
他の人からすれば“ひきこもり”なのかもしれない。
だけど僕は“待っている”んだ。
僕の大切な人を。帰って来てくれると信じて。
ずっとずっと…僕は待っている。


朝から夜まで。一日中。2階の窓の前においてある椅子に座って家の門をボーっと眺めている。
もう一度言うけど一日中だよ。朝、5時前から夜中の2時過ぎまで。
普通なら学校とかに行かなくちゃ行けないんだけど、僕は行っていない。
だって、その間に帰って来て、僕を迎えに来てくれるかもしれないんだよ?
…というより行くお金がないんだけどね。
毎日夕方に学校の先生が来る。
玄関のカギはかかってないから、いつでもだれでも入ってこれる。
そして先生は2階まで来て、お弁当を渡して、僕の部屋を片付けて…それをニコニコしながらやるんだ。
本人は気が付いてないのかもしれないけど、僕にはその笑顔がまぶしすぎる。
損な笑顔で僕を見ないでよ。話しかけないでよ。
先生の笑顔を見ていると悲しくなるんだよ?
お母さんを思い出しちゃうんだよ?
僕は必至で涙をこらえた。手をギュッと握ったり、窓の外を見て気をそらそうとしたり、
必死で頑張って…


でも、無理なものは無理なんだよね。僕は弱いから。
どうしてもお母さんに見えてしまって…違うってわかってるのに。
どうしても、誰かに甘えたくて。構ってほしくて。
人の温かさを身近に感じたくて…
僕はぽろぽろと涙をこぼした。
ズボンの上に涙がどんどん落ちてきて、止めようとしても止まらなくて…

すると先生は僕をぎゅっと抱きしめて「大丈夫。先生がそばにいるからね」って言うんだ。
涙は止まらなくて、干からびちゃうんじゃないかと思うくらい涙が出てきて…
泣くことしかできない僕。“無力”なんだな、って思う。すぐに誰かに頼ろうとするし
独りで何もできないんだもん。何も…


しばらくして、やっと涙が止まった。
先生が背中に回した手を僕の頭にのせてにっこりと微笑んだ。僕は視線を窓の外に向けた。
なみだを泣かしたのに心はすっきりしなかった。
心にぽっかりあいた穴は泣いても“代わりの人”の温かさでも埋まらないんだ。
僕の心の穴はどうしたら埋まるんだろう…

先生は僕の前に膝をつき、僕の手を両手で包むと
「ねえ、先生の家に来て一緒に住まない?」
先生はいつも帰るときに笑顔で「寂しくない?」「一緒に来る?」と聞く。
今日は真剣な顔だった。僕はいつものように目線をそらし、窓の外を見る。
先生は小さくため息をつき、「気が変わったら教えてね」と言い残し部屋を出た。


先生が出て行った後の部屋はいつも以上に静かな気がした。
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