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□第4話
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「ねぇ、あの店に入ってみましょうよ。」

「ええ?もう買い物はいいじゃないか。そろそろ、レストランで食事にしないか?」

「何言ってるのよ。催し物の期間じゃないと、ゆっくり買い物も出来ないんだから。今のうちに、買いだめておかないと!」

「ふぅ、分かったよ。」

仕事が休みの時間帯。
私は久し振りに、街に降りてきた。
前を歩くカップル同様、私も買いだめをするためだ。
ここ、ダイヤの国に来る前は、よく外を出歩いていたが、今はあまり外を歩かなくなった。
休みの時間帯は勿論、少しの休憩時間でも、美術館内で過ごす事が多くなった。
引き込もっているつもりはないが、外に出る気にならないのだ。
この国が他の国と比べて危険だという事もあるが、行きたいと思う場所もない。
以前なら、他領土の友人達に会いに行ったが、今はその人達はどこにもいない。
同じ姿形をしているが、全く違うかつての友人達を思い出す。

(私だけが、相手の事を知っているっていうのは、辛いわね・・・。)

この世界に残り、せっかく築いてきた関係がゼロに戻ってしまったのだ。
しかも、相手によってはマイナスになってしまった人もいる。
あんなに仲良くしてくれたのに。
以前の関係を思い出すだけで、悲しくなった。

(ん?あれは・・・。)

少し離れた所に、見覚えのある人物がいた。
カフェオレ色の長い耳を頭から生やした大男。
帽子屋ファミリーのナンバー2であるエリオット=マーチだ。
愛らしいウサギ耳を持つ、ブラッドの忠実な部下。
そして、かつての友人だった一人で、今ではマイナスの関係になってしまった、可愛いウサギさん。

(エリオットが、どうしてここ(墓守領)に?何かあったのかしら。)

まさか抗争かとも思ったが、様子がおかしい。
後ろ姿しか見えないが、立ち止まり、誰かと話しているようだ。
誰と話しているのだろう。
私は興味本意で、エリオットに近付いた。

(え?オーグ?)

エリオットと一緒にいた人物は、私も知る人物だった。
同じ敷地内に住んでいる、墓職人。

(何で、オーグとエリオットが?)

オーグの顔はフードのせいで見えないが、エリオットはこの世界の彼には珍しく、笑っていた。
それはかつて、自分にも向けられていた、なんの悪意のない純粋な笑顔だった。

(二人は友達なのかしら?でもエリオットが、他領土の人と仲良くするかしら?)

しかもオーグは居候とは言え、墓守領の人間だ。
敵対するマフィアに身を置いている者と、あのエリオットが仲良くするとは考えにくい。
だが、今現在エリオットといる人物は、オーグで間違いないだろう。

(二人は、どういった関係なのかしら?)

ここからでは、二人の会話までは聞き取れない。
声をかけても良いものだろうか。

声をかけるP2
様子を伺うP3
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