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□第1回催し物
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「凄いな・・・。凄い。オーグ、よく此れだけの物を作ってくれた。ありがとう。」

「ああ。よくできている。」

「オーグさん、凄いですね。流石です。」

「綺麗ですねえ。」

「・・・どうも。」

ジェリコを始め、ユリウスや構成員の皆も、口々にオーグを褒め、オブジェの感想を言った。
オーグはフードを被って顔は見えないが、恐らく頬を赤く染めているであろう。
オーグの作った不死鳥は、数時間帯前に完成し、今は美術館の正面入り口の中央に飾られた。
ここは、入場客全員が真っ先に目に入る場所だ。
美術館を訪れた客達も、感嘆するに違いない。

「お前の作るオブジェはどれも整合だが、これは格別にレベルが高いな。よくこの短期間でこんな手の込んだ物を作れたな。」

「・・・あんたの依頼を受けてから作ったんじゃねぇ。これは前々から手掛けてた物だ。せっかくの催し物だからな。奮発した。」

「そうか。ありがとう。こんな立派な物を・・・。感謝の言葉しか出てこない。俺の為に・・・。」

「は?何言ってる?あんたの為に作ったんじゃねぇぞ。これは俺のだ。」

「は?催し物の為に完成させてくれたんだろ?」

「催し物に間に合うように作ったが、あんたにやるとは言ってない。」

「何?俺が依頼して、依頼料も払った。材料費まで出したんだから、俺のだろ?」

「違う。俺が作ったんだから、俺のだ。あんたには、催し物の期間だけ、貸してやる。」

なんだか雲行きが怪しくなってきた。
オーグとジェリコ、二人の間で妙な空気が流れる。
二人ともオブジェは自分の物だと主張して譲らない。

「なぁ、オーグ。百歩譲って、これがお前の物だとしよう。だが、お前がこれを持っていたって、飾る場所もなければ、使いようもないだろう?それは宝の持ち腐れじゃないか?工場の隅に置いてホコリを被せるより、俺に手渡してこうやって飾った方が良いと思わないか?」

「嫌だ。これは俺のだ。」

「オーグ。」

「嫌だ。」

嫌だ嫌だと繰り返すオーグ。
それを何とか言いくるめようとするジェリコ。
二人の終わりない押し問答が始まった。
二人の剣幕に、周りは口を挟む事が出来ない。
他から見たら、どちらの所有物だろうと構わないが、本人達にとっては重大な問題なのだろう。

「ユリウスさん。二人を止めて下さい。」

「バカを言うな。止められるわけがないだろう。ジェリコは美術品の事となると目の色を変えるし、オーグは自分の物を易々と手放すような男じゃない。はぁ・・・。」

ユリウスはため息をついた。
二人を見ると、言い合いはヒートアップする一方で、終わりそうもない。
ユリウスでなくても、ため息が出る。
構成員の皆も困った様子だったが、誰一人として、止めに入る者はいない。
かくいう私も、今の二人の間に口を挟む勇気はない。
オーグの顔は見えないが、ジェリコの形相を見て、背筋が寒くなった。
オブジェ一つで、いつもの穏やかな表情が鬼の顔に変わっている。
恐ろしい。

(この討論、いつまで続くのかしら。)

***

「で、オブジェはどっちの物になったの?」

「どうやら、オーグさんが折れて、館長の物になったそうですよ。」

「そう。よくオーグが諦めたわね。」

「なんでも、館長が新しいクリスタルを購入して差し上げる事を条件に、手放したそうですよ。ここだけの話、館長はその新しいクリスタルで作るオブジェも狙ってるとか。」

「・・・また揉めそうね。」

不死鳥のオブジェをめぐったオーグとジェリコの言い争いの結果を、美術館の女性スタッフから聞いた。
数時間帯前に繰り広げられた二人の争いは、催し物の準備が遅れるという理由で、ジェリコが半ば無理矢理終わらせたとか。
そのかいあってか、催し物は無事開催された。
催し物の期間中はジェリコが言った通り、美術館への観覧客はいつも以上に多かった。
その為、私はもぎりの仕事が忙しく、あまり催し物の準備には参加出来なかった。
今は、ジェリコ主催の催し物、酒盛りに、他領土の役持ち達や一般参加者達と一緒に、絵の中に入っていた。
皆、至るところで飲んだり食べたりしている。
ハートの国でやった舞踏会とは全く違った雰囲気の催し物。
まさに酒盛りと言うに相応しく、騒がしい。
ジェリコは挨拶周りで忙しいらしく、彼の姿は見えない。
ユリウスは先程まではいたが、ジェリコのいない内にと、今はもう一足先に絵を抜け出した。
やはり、人混みは嫌いなのであろう。
ユリウスが酒片手に浮かれている姿など、想像も出来ない。
私は隣で一人食べ続けているオーグを見た。
彼は食事中はフードを取るらしく、顔が見える。

「ユリウス帰っちゃったわね。」

「ああ。」

「やっぱり、騒がしいのが嫌いなのね。あなたはこういう雰囲気は大丈夫なの?」

「あまり気にしねぇ。」

「そう。それ美味しい?」

「ああ。食べるか?」

「ええ。ありがとう。」

オーグとの会話はあまり続かないが、彼は返事は必ず返してくれる。
しかもユリウスのように、わざと棘のある言い方をする事もないし、どこかの猫や夢魔と違って、分かりにくい言い回しもしない。
ただ少し素っ気ないだけ。
親しげに接する事もなければ、突き放す事もしない。
だからだろうか。
私は彼と顔を合わすと、声をかける事が多くなった。
誰も私を知らないこの世界で、初めてあった彼の側は落ち着く。
私はオーグが食べていたローストビーフを皿に取り、口に運んだ。

「美味しい。」

「ああ。」

(美味しそうに食べるわね。)

オーグは感情がすぐに顔に出るのだろう。
彼の顔からは、この料理がお気に召したことが、ありありと伝わってくる。

「そう言えば、オーグはお酒を飲まないの?」

彼が飲んでいるのは、私と同じジュースだ。
私はそんなにお酒に強くない。
すぐに酔ってしまうので、ジュースで我慢だ。

「お酒、弱いの?」

「違う。飲まないようにしてるだけだ。・・・飲むと、食欲が増すんだよ。」

「・・・今より?」

「ああ。」

彼の周りには、大量の料理と、既に食べ終わった皿がある。
これ以上食べるというのか。

「よくお腹に入るわね。」

「別に良いだろ。なあ。あんたの近くにある、それ取ってくれ。」

私は、オーグ指名のサンドイッチを、無言で渡した。

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