その他

□オグなこ二話。
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『こころだけは連れていく』


「……そんな、に、死にたいんだったら、なこさんが殺して、連れてってもいいんだよね?…おぐりんくん、なこさんと一緒に行こう?」

泣きながらそう言った菜古に頷いたオーグは、そう言うくせに何も手にしていない菜古に杭を差し出す。
けれど菜古は首を横に振り、オーグの首に腕を回して抱きついた。

「なこさん?」
「…ひっく、ほんとは、やだよ…やだけど……知らない所で死んじゃうのは、もっと嫌だよ…」
「………」

少し屈んで抱き締め返したオーグは、しゃくり上げる菜古が落ち着くのを待った。
やがて、泣き声が落ち着く。けれど体の震えが止まっていない。

「なこさん…」
「…大丈夫、大丈夫だよおぐりんくん。怖いだけ、だから」

抱きしめる腕に力を込めてオーグの耳に唇を寄せ、細い、ともすれば掠れて消えそうな声で菜古は歌い始めた。
聞いたことのあるようで、それでいて一度も聞いたことのないウタ。

目を閉じ、耳を澄ませてその歌を聞いていたオーグは、全身に鳥肌が立つのを感じていた。
けれど、泣き腫らした目で歌っているであろう菜古の後頭部に手を当て、優しく撫でてやる。

「(怖がらなくていい)」

体を震わせながら、しかし声を震わせることなく、菜古はオーグにだけ歌いかける。
オーグも薄々気付き始めていた。
足の感覚が消えていく。
腰の感覚が消えていく。
腹の感覚が消えていく。
下半身から上半身へ。触れているのに、その感触がわからなくなっていく。
強く縋り付く温もりが、遠くなっていく。

「(一緒に居る。怖がるな)」

感覚がなくなりつつある中、抱きしめる腕に力を込める。頭を撫で続ける。

好きだよ。大好き。

菜古の声なき声を聞いた気がした。
そして、オーグの意識が霧散する。




一人きりで、地面に座り込んだ菜古が泣きじゃくる。
両手で握り、胸に抱き締めているのは一つの時計。
黒い影が周りを取り囲んでも、いつものようにオバケだと怯えることもなく、強く胸に抱き締める。

「あげないよ」

泣きながら、震えた声で拒絶する。

「君たちにはあげない。でも、持ってっちゃいけないなら、ちゃんと返すから。もう少し、もう少しだけ…」

一部になれ、とばかりに強く抱き締めて泣きじゃくる。
と、虚を突かれたように泣き止み、菜古は時計を見下ろした。
手の中の時計は沈黙を守り、文字盤も、外殻も、何の損傷も見受けられない。止まってしまった時計。この世界のいのち。
けれど、今何かが入り込んだ。

「…おぐりんくん…?」

心臓の隣が、体の真ん中が応えるように暖かい。
やがて処刑人が現れた時、菜古は小さくしゃくり上げながらも、大切そうに両手で持った時計をそっと差し出した。
受け取りながらも戸惑うような雰囲気に微笑んで自身の胸を示し、目を伏せる。
涙が枯れない。
寂しい。けど、嬉しい。けど、悲しい。



「……行こう。帰ろう、一緒に…」

目を擦って立ち上がり、菜古は帰り道を開いてもらう。
中継地として利用するつもりの霧の地の案内人は、いつか見た時と同じ笑顔で迎えてくれたが、菜古の寂寥感を感じたのかすぐにその笑顔を曇らせ、悲しげに一声鳴いた。




***
アリスとはまた違う世界から来たなこさん
ドンカラスのなこさん

何故か、聞いた人だけを滅ぼす歌
『ほろびのうた』


いつの間にか歌えるようになっていて、忘れることができない恐ろしい歌。歌ったなこさんが滅びないのが不思議に思われている(普通のほろびのうたは、聞いたものが全て滅びる)
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