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□出会い
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このオリキャラ小説は『ダイヤの国のアリス・ワンダフル・ミラーワールド』をもとに作りました。
始まりは滞在先を墓守領に決定し、ユリウスへの紹介が終わったあたりからです。


***


「そうそう。この美術館の住居スペースには俺とユリウスの他に、もう一人役持ちがいるんだ。そいつの事も、紹介するぜ。さっきスタッフに呼びに行かせたから、そろそろ来るだろう。」

「もう一人?」

ジェリコは滞在を快く認めてくれたが、ユリウスには何故かは分からないが、反対された。いや、ユリウスも認めてはくれたが、それは家主であるジェリコが決定を出したから、しぶしぶながらも容認したようなものだ。本当なら、良く思ってはいないだろう。
もう一人の役持ちが誰かは分からないが、滞在を認めてくれるだろうか。

(と言うか、もう一人って誰かしら?)

「もう一人の方も、部屋を置いているだけで組織に加わっているわけじゃねぇから、反対することもないだろう。アイツはこの世界では珍しく付き合いやすい奴だ。ちょっと無愛想な所もあるが、ユリウスよりはマシだ。そう心配すんな。」

一人不安に暮れていたことを察したのか。ジェリコが気を使ってくれた。安心させようと言ってくれるが、不安は解消されない。
ジェリコにばれないように、小さく息を吐いた。
カツカツと足音が響いた。
音の方を見ると、先ほど同居人を連れてくるようにジェリコに命じられたスタッフが、速足でこちらに向かって来ている。
だが近付いて来るのは、呼びに行かせたはずのスタッフ一人だった。

「ん?来たな。」

「すみません、館長。工場の方には不在だったので、他にも食堂や墓地の方も探したのですが、どこにもいらっしゃいません。」

「何?まったく、アイツは。また何も言わずに、出かけたのか?」

ジェリコは仕方がないと言った様子で、溜め息を吐いた。

「すまないな、アリス。紹介はまた今度だ。」

「え、ええ。分かったは。」

「疲れただろう?美術館の案内はまた今度にして、今はもう休むと良い。」

「ええ。そうさせてもらうは。」


***


ジェリコが去って一人になると、 一休みするために、備え付けてあるソファーに腰掛けた。簡易ベッドと言って良い程の広々とした作りになっているため、ここで寝る事も出来そうだ。

「ふう・・・。ここでの生活が始まるのね。・・・早く慣れないと。」

腰を下ろすと、自分で思っていた以上に疲れていたのか、体が重い。
帽子屋屋敷でも休ませてもらったので、体力的には疲れていないはずだ。疲れているのは、体ではなく精神の方だろう。

(少し眠って、目が覚めたら住居スペースを歩いてみようかしら。)

瞼が急激に重くなり、誘われるまま目を閉じた。


***


美術館の展示エリアを通り抜け、二階にある通路の踊場から、居住スペースに続く渡り廊下に続いている。
そこに、美術館館員は勿論、墓守も、マフィアの構成員も、皆同じ場所に住んでいる。同じ場所と言っても、エリアや階は役割によって違うが。
私がジェリコの好意で用意してもらった部屋は、二階にある女性スタッフ専用のエリアだ。
墓守領の構成員は、屈強な男性が大多数を占めている。だから、少数の女性スタッフは、ほぼ全員がこのエリアに部屋を置いている。
私が眠りから目を覚ますと、見計らったかのように隣の部屋のスタッフが挨拶に来てくれた。しかも、居住スペースの案内を買って出てくれたのだ。
これからここで住むうえで利用するであろう通路、フロア、食堂のオススメ料理などを教えてくれた。なんて親切な。
これから仕事だという彼女と別れ、今は居住スペースのエントランスにいた。
このまま部屋に戻ってもする事がないので、エントランスに飾られている美術品を眺めていた。
居住スペースのエントランスはモノクロに統一されていて、床には騙し絵が描かれている。
よく目を凝らし、床に描かれている絵を見た。至る所に、鳥と鳥がうまく組み合わさっている。

(美術館の館長をやっているだけの事はあるわね。居住スペースにまで、こだわるなんて。)

うまくバランスを取り組み合わさっているものだと騙し絵に感心するが、それ以上に、ジェリコのこだわりに。
仕事柄と言うだけでなく、ジェリコは芸術を愛する男なのだろう。
カツカツと、床を踏む音が響いた。
隠し絵に夢中になっていたが、音のした方に顔を向ける。
スタッフが帰って来たのだろうか。

(え!?ふ、不審者!?)

目に入ったのは、モッズコートに身を包み、コートの帽子を深く被った人物だった。背格好からして、男だろうか。両手をポケットの中に入れ、ユラユラと上体を揺らしながら、こちらに向かって来る。
男が来た方向は、居住スペースの裏口に当たる方からだ。
ジェリコが美術館のスタッフは、美術館の踊場からこちらに来た方が早い、便利だからそこを使う者が多いと言っていた。
男の格好からしても、美術館のスタッフではないだろう。では墓守?

(いやいやいや。あんな怪しい格好の墓守なんていないわよ。)

それに、墓守にしては細い気がする。では、マフィアの構成員か。

(そうも見えないわね。)

あと残る可能性は。

(侵入者!?まさか、敵が攻め込んで来たって事はないわよね!?)

ここはマフィアの本拠地。
いつ敵対する組織が攻め込んで来ても、おかしくない場所だ。
ジェリコは警備も万全で、ここ(美術館)まで攻め込まれる心配はないと言っていた。
だが、ここは美術館なのだ。
観覧客に紛れて、敵が入り込む事も、可能なのではないだろうか。

「ん?お前・・・・。」

不審者(と思われる男)は私に気付くと足を止めて、こちらを見た。
見たと言っても私からは、彼の顔は見えない。
自分でも無意識の内に、相手との壁を作るように、胸の辺りで両手を握り締めた。
誰だか分からない相手を前にして、足が竦む。

(ど、どうしよう!)


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