Flowers‐フラワーズ‐

□*玉すだれ*
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秋。


『過度な練習による膝への負担が原因だと思われます』

おいおいマジかよ、

『この先無理に続けると、日常生活にまで支障を来しかねません』

ふざけんなよ、

『これからは高校生らしく学生生活を楽しみなさい』

俺から水泳取ったら何が残んの…?


俺の夢は、驚くほど簡単に崩れた。





今まで部活漬けだったのに、急に自由な時間になっても何していいか分かんなくて。
ただぼー、っと色付き始めた庭の木を眺めて過ごした。

そんな俺を元気付けよう、と親が連れてったのは、
大きなビニールハウスの中に溢れかえる花々。
いわゆる植物園だった。

正直お袋が元気になるとこだろ…、とか思ったけど、その気づかいが嬉しかった。


どちらかと言うと、花は好きな方だ。

でも今の俺には室内にこもるキツい匂いがうっとうしくて。

ビニールハウスの裏手、小高い丘の上。
秋晴れの空の下、うとうとまどろんでた。


目に映るのは、切り裂いたような空。
そして視界の端に入り込む白。


丘の下を埋め尽くす白い花。

一面を覆い尽くすその花は、まるでじゅうたんみたいで。
思わず、目を奪われた。


あの花。
なんか見たことある気がする。
母さんが前に言ってたような…
く…く…く…、く?
いやいや、た…、たま?
なんだったっけなぁ…


「あの、大丈夫ですか?」

「え…?」

一面の白をバックに、覗き込む心配そうな顔。

「あ、大丈夫です!」

差し出された柔らかい掌。

「……そうですか」

少し困ったような、力ない微笑み。





名前も知らないその人が。

俺には、天使に見えた。
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